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第3話

「こ、コーヒーと紅茶と、緑茶と、…どれがいいですか…?」 大変だ。聞きたいことがあっても緊張して言葉にならない。そもそも何を話していいのかわからず、とりあえず場を繋ごうと試みる。 「じゃあ、紅茶で。」 紅茶紅茶…。電気ケトルで湯を沸かし、ティーバッグをカップに入れた。 湧いたお湯を注ぐと、芳醇な香りが辺りに広がる。 ティーバッグと熱湯の入ったカップを彼の元に運ぶこと、緊張で足がすくんでしまい困難だ。 こぼさないように気をつけなければ。 スイートルームのケトルがある台から中央のテーブルまでは、だいぶ距離がある。その距離を一歩一歩注意して進んだ。 しかし、いきなり足がよろめいて、その瞬間なにかに思い切り突き飛ばされた。 「な、なに…?」 突き飛ばされれば当然身体はカーペットに打ち付けられるはずだったが、全く痛みは走らなかった。むしろ温かくて安心する。 …温かい?もちろん部屋は暖かいが、どう言う… 「熱くありませんでしたか?」 低い声が"耳元で"囁く。 「…!?」 そこでようやく悟った。 突き飛ばされたわけではなく、手に持っていたカップをヨルの右手に奪われ、ヨルの左腕に身体が引っ張られ、抱きかかえられた状態になっているのだった。 「あ、ああああああののっ…!!」 「…?あのままでは、足に熱湯が溢れるところでしたので。スリッパを履いているとはいえ、かかったら熱いかと…。」 「そそ、そうですかっ!!」 …おかしい。緊張しすぎて喋り方がもう、明らかに怪しい人になっている。 絶対顔も赤いし、普段とは違い自分がうまく扱えなくて、エレンは少し涙目になった。 「エレンさん、もしかして本当に緊張してるんですか?」 片腕でエレンを抱きかかえたまま、カップを机に置き、ヨルが問いかける。 「…うん。」 “あっ…。うん、とか子供っぽい言い方しちゃった…。” 時間が巻き戻らないものかとありもしないことを考えながらヨルを見ると、ははっ、と鼻で笑われた。 “今度こそ泣きそう…” 心の中でぐるぐると考える。真っ赤になったまま俯いて黙っている間に、ヨルが紅茶を入れなおしてくれた。エレンの分も合わせて、2つ分。 「ミルクとか砂糖いります?」 「い、要らない、です。」 精一杯の虚勢でいったものの、やはり苦くて盛大に顔をしかめてしまう。すると目の前でヨルがミルクと砂糖を自分の紅茶にたっぷり入れて、 「うわっ、甘っ!!入れすぎたっ…。 エレンさん飲めますか?これ。」 と聞いてきた。無言で互いのカップを入れ替え一口含むと、ちょうど良い甘さになっている。 “間接キス…。”などと子供っぽいことは考えていないし、そもそも相手は男である。 「こ、このくらい、ならっ…。」 「助かります。」 美味しい、といったら子供舌がバレてしまうから、わざと我慢しているふうを装う。 ちなみに彼と対等に話そうとして、無理に背伸びして空回りしていることなど、エレンにはわかっていないのだった。

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