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第7話
15歳になり、エレンは予定通り医師免許を取得した。本来異例の早さであるが、おそらく問題ないだろう。
なぜなら、臨床実習は積んだものの、目指していたのは研究医だったからだ。
もちろん資格上医療行為を行なうことも許されているし、必要に迫られれば率先して動かなければならないわけだが。
今日も研究施設シリウスの中で、安全キャビネットの前に座り、エレンは実験操作を繰り返している。
研究内容は薬についてで、目的は現在臨床で使われている薬がどのように作用するかを確かめることだ。
実際、現状では急速な医療の進歩にこのような基礎研究とよばれる研究が追いついていない。つまり、なぜ効くかがわからないまま、とりあえず効いたからと使われている薬や治療法も数多くあるのだ。
医療の進歩に基礎研究が必要だという声は、多くある。
しっかりとメカニズムがわかれば、不要なものを取り除くことができ、副作用などを減らすことができる。その一方で、それにかかる労力やコストが莫大なことから、進んで手をつける人はあまりいない。
細胞を培養するには多くの装置がいる。しかも装置があってもなお、手間がかかる。
細胞の育ち具合に合わせて実験をしたり器を入れ替えたりしなければならないため、休みが取りにくいのだ。
「日曜日でも休みなく、よくやってるな。」
エレンの背後で苦笑いしながらヨルが話しかけた。
「細胞の周期的に外せなくて。明後日休む。」
「そうか。明後日どこか行きたいところあるか?」
「うーん…。えっと、天体観測…?」
「明後日確か雨だぞ。」
「じゃあプラネタリウム!」
「ははっ、かしこまりました。」
「…ごめん。ずっと後ろで見ているだけなんて、つまらないよね。」
少し間をおいて、エレンが少し落ち込んだ様子で謝ってきた。
ヨルとしては実験操作の手を止めずに百面相するエレンの姿が実に微笑ましいのでむしろ楽しいのだが、それをエレンが知る由はない。
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