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第14話

「応急処置は私達でもできます。訓練されておりますので。 エレンさんならヨルさんの思い、わかっていますよね。もう少し冷静になって考えてみてください。」 「で、でもっ… 」 「ΩがΩを助けるのは罪じゃない。うちでは止血方法くらい、叩き込まれるんです。だから、もう少し冷静になってください。」 デネボラの組織員が言った言葉に、エレンは頭を冷やされた。混乱した頭を、冷静になって整理する。 この世界は、不平等でできている。 天は二物を与えず?そんな綺麗事を言った人は、きっと与えられた側なのだろう。 自分のように、いくらでも与えられた人がいる。その反面、1つも与えられなかった人たちがいる。 権利を与えられなかった人たちは、頑張る度に理不尽な壁にぶち当たる。 しかし、現実を受け入れてその鞘に収まって生きる選択をしたものたちの人生もまた、悲惨なことには変わらない。 要は、楽なのか、苦しいのかだけだ。理不尽な現実を受け入れて精神的に楽に生きるか、逆らって苦しみもがきながら生きるか。 今エレンの腕の中にいてぐったりとしている彼は、明らかに後者だ。苦しみながらも、生まれた時に与えられた定めとは真逆の道を、あたかも平然かのように歩み続けてきた。 …そう、こんなにもそばで一緒にいたエレンさえ、彼がそんな境遇の中にいるだなんて、気づかないほど、平然と。 幼い頃から両親に、"将来この国を背負っていくのはお前だ"と言われてきた。だから自分も、この少し息苦しい、それでも大好きな世界のために生きようと努力してきた。 …馬鹿だったと思う。 蓋を開けてみればこの世界はこんなにも汚く、αのエゴに支配されているのに。 なら。 「こんな世界、いらない。僕はヨルと生きる。そうお父様に伝えて。一生、外の世界に出られなくても、あるいは殺されたとしても。 僕はヨルと一緒がいい。彼がいないなら僕じゃない。」 結論は一つだった。言葉にして仕舞えば、むしろそれ以外のことを考えていたことが不思議で。 傍にはアルクトゥールスの人間がいる。アルクトゥールスの本来の仕事は秩序を守ることであり、誰かの警護ではない。どこかの国では警察と呼ばれる組織だ。 アルクトゥールスの組織員が手錠をかけようとしてくる。それを、エレンは言葉で静止した。 「僕が医療行為を行なって、この人が助かったら。それは罪ですよね?でも今僕を逮捕したって何にもならないでしょう。」 彼らは黙って後に引いた。 デネボラの組織員に血を分けてもらい、その血を使って処置を施す。1人でやるのは大変でも、彼のためになるのなら疲れなどどうでもいい。 きっとこれから自分は尊敬してきた父には見捨てられ、 総理の息子が逮捕されたと大きく報道されて、 この世界にいることを何度も辛いと感じるだろう。 ヨルと一緒にいることも、できなくなるかもしれない。 それでも彼がいない世界よりはずっといいと思ったのだ。

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