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第6話

小中高と成長していき、春馬と真冬も名家の息子としてパーティーに顔を出す機会が増えていった。 「学力はあっても、無愛想よね……」 「それに比べて弟さんの方は、愛想が良く洞察力もあるでしょう。現当主も、弟さんの方に期待をしているって噂よ」 「でも、兄を差し置いて当主になるなんて難しいよな。ほんと、生まれる順を選べないなんて可哀想だよ」 成績は常に首席をキープしているが、学園では孤立し、川崎としか共に行動をしていない無口な兄。 そんな兄とは正反対で、明るく友人に囲まれている頼りにもなる弟。 気づけば同世代だけではなく、親や名家の当主たちにも、『兄はかわいそう』と言われるようになっていた。 もちろんその声は、本人達の耳にも届いている。 「あいつらなんなの? 兄様は、次期当主として十分相応しい存在のに」 「真冬、周りの声など気にするな」 「でも!」 「いいんだ。お前さえ、私を理解してくれていれば」 そういって春馬は真冬を静かに抱きしめ、額へ口付ける。 「兄さん。俺、もう子どもじゃないんだよ。そういったスキンシップは――」 「ふふっ、真冬は可愛いな」 「兄さん、くすぐったいっ……ってば」 「春馬様、真冬様、お遊びはその辺にして下さい。そろそろ、皆様へのご挨拶に向かいますよ」 控え室として利用している部屋にやって来た川崎は、表情を変えることなく2人のやり取りを横目に語りかける。 「特に春馬様、本日はあなたの卒業祝いの席です。下手に動くと、せっかく綺麗に整えたその身だしなみが乱れてしまいますよ」 「私の祝いなんて、ただの口実さ。何かしら理由をつけて祝賀会を開き、大人達がパイプを作りたいだけだろ」 「兄さん、そんな風に言わないで。俺は兄さんの卒業を心から祝ってるよ」 「真冬……お前は本当に良い子だ。お前さえいれば私は――」 「俺だけって、そんな悲しいこと言わないでよ。兄さんは、みんなから尊敬されるべき人間なんだから。俺は先に会場へ向かってるから、兄さんはもう一度身だしなみをチェックしてから来てね」 真冬は、子供のように駄々をこねていた春馬の背中を押し、化粧台の前へと座らせる。 「川崎、あとはよろしくね」 「かしこまりました」 そう言葉を残すと、真冬は部屋を後にした。 2人きりになった部屋では沈黙が続き、川崎が静かに春馬の身だしなみを整える。 髪をすく音と、衣服が擦れ合う音だけが響くこの部屋で、先に口を開いたのは春馬の方だった。 「……川崎、お前も本当は私が嫌いだったりするか? 当主として、相応しくない人間だと思っているかい?」 「私は、春馬様以上にこの屋敷を任せられる人物はいないと思っております」 「でも、今日の客人だけじゃない。最近は父様まで私よりも真冬の方が跡継ぎに向いているって言うんだ。……そうだよな。どこにいても孤立し、周りからも声を掛けられない人物が白崎の名を名乗るなど、一家の恥だと感じるよな……」 自分の何がいけないのかと、弱音を吐く春馬に川崎は問いかける。 「例え学友や周りの名家のものから疎まれていたとしても、春馬様……何があってもあなたの傍にいてくれる人物が1人でもいれば、良いのではないでしょうか? そのような人物に、お心当たりありませんか?」 「心当たり……か」 「ええ。あなたのことを誰よりも愛し、あなたの心を満たしてくれる相手です」 「……! そうか、真冬か。生まれた時から私を敬い、いつも傍にいてくれた。川崎の言う通り、周りに何を言われようと私には可愛い弟、真冬がいれば問題ない」 「……」 「近くにいすぎて、気づかなかったよ。ありがとう川崎、お前のおかげで気づけた」 「……お力になれたのであれば、光栄です」 ひきつる口元を隠すように、川崎は主人に微笑みかける。 「さ、準備が整いましたよ。私はこの場を片付けてから向かいますので、春馬様は先に会場へ向かい、皆様へご挨拶を済ませてきて下さい」 「ああ、分かった。お前も、あまり遅くなるなよ。白崎家の優秀な使いとして、皆に紹介をしないといけないんだからな」 そう言葉を残して、春馬は控えの部屋から出て行った。

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