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第8話

「なぁ、川崎。見てみろ。可愛いだろ?」 「えぇ、そうですね」 生まれたばかりの赤ん坊を抱きながら、春馬は川崎に問いかける。 今まで見たこともないような、キラキラと目を輝かせる笑顔の春馬とは違い、川崎は無表情だった。 (何故だ……何故、思い通りにいかないんだ) 真っ白な着ぐるみで身を纏い、彼の腕の中でスヤスヤと眠る赤ん坊は、もちろん川崎の子ではないし、春馬の子供でもない。 「兄さん、俺や亜衣よりも冬愛(とあ)を抱っこしてる時間が長いんじゃない?」 「でも、お義兄さんにも可愛がってもらえて、冬愛も幸せそうだしいいんじゃないかしら」 赤ん坊の母親である亜依は、父親である真冬と腕を絡ませながら、可愛らしい笑顔で話す。 川崎が仕掛けて、出逢ったこの2人。 数年前、街ですれ違った際に互いの香りに惹かれあい、お互いが運命の番相手だと気づいて、その日から付き合いが始まった。 名家であるものの、どの代の当主もΩ相手を番にしていたので、白崎の家はΩである亜依を 招き入れることに抵抗など全くなかった。 むしろ大歓迎しており、早く子供を作れとまで言われていた。 周りからの言葉にも応えるかのように、亜依のお腹の中にはすぐに1つの命が宿った。 残念なことに、跡継ぎ候補にはならないΩの性ではあるが、無事に生まれた男の子は、両親の漢字・名前からそれぞれ一文字をとって、「冬愛」と名付けられた。 名前の通り、冬景色のように真っ白な肌で、皆から愛される可愛らしい子供。 しかし、川崎だけはこの子供を可愛いと思えず愛せなかった。 「ふぇっ……んぎゃ、ぎえーーーー!」 「とあ~? どうした?」 「オムツが汚れて、気持ち悪いのかしら。冬愛~、向こうで替えましょうね」 「亜依様、私がやりますよ。昨夜も、冬愛様の夜泣きで皆様寝不足かと思いますし、今のうちに少しでもお休みいただければ」 「でも、川崎さんだって休めていないでしょ?」 「亜依さん、いいんだよ。これが川崎の仕事なんだし」 早くオムツを替えてやれと強めに命じながら、 春馬は自分の腕の中で泣き続ける冬愛を川崎へと渡す。 「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ。川崎さん、いつもありがとう」 亜依からの言葉に、川崎は一礼をしてからその場を離れる。

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