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第3話
言いながら、メルヒオ―ルは膝をぐりぐりと動かし続けていた。なんとか息を殺そうと唇をかみこらえていると、そっと近づいてきた舌がこちらの頬をべろりと舐めた。
与えられ続ける快楽と、食べ尽くされてしまいそうなその挙措に、今度こそあえあかな声が漏れた。
それを逃すまいと、甘くしびれる熱い舌が唇に割りいってくる。
「ふっ……む、ぅんぁっ!……んっ……」
とろりと溶けてからなお、メルヒオ―ルは容赦ない。
抑えがきかなくなったように舌を絡めとり、顎先をくすぐられ、きつく吸われた。
角度を変え舌先を食まれ、同時に立ち上がってしまったものを膝で刺激されれば、大きく身がはねて瞼の裏に星が散った。
「ぁ、ぁ、あっ!……はっ、はぁ、ぁ…はっ」
唇が離れても余韻が治まらない……どうやら軽く達してしまったらしい。そのままずり落ちそうな身は、メルヒオ―ルが支えてくれた。荒い息もおさまらぬまま相手の体にもたれかかると、ふわりと香ってくる甘い匂いにますます熱が高まった気がした。
(だめだ、このままじゃ……)
なんとかして逃げないと。
このまま快楽に流されてしまってはいけない。
なにしろこいつは敵国の男。いくら体の相性がいいからといって……ましてや、あり得ないことだろうが仮にツガイだったとして、こんなこと許されることではない。
そうは思っても漂う香りに脳天からしびれ、体をすりつけたくなっている。理性と本能が混じりあい、はじめての経験にリウは戸惑っていた。
(とにかく、逃げないと……!)
リウは震えるからだを起こそうとしたが、男の膝の上に抱え込まれていてうまくいかない。
理性を溶かす香りが鼻腔をくすぐり、熱だけが身のうちにこもっていく。
触れあう衣越しに伝わる相手の体を、もっと感じたいと願ってしまうのは、きっと慣れない快楽を浴びたせいだ。
夜の雰囲気に呑まれたのだ――リウは内心でそう言い訳をした。
「名を、おしえてくれる気になったかな?」
メルヒオ―ルが笑う吐息が耳元にかかり、それだけでかぁと頬に熱が集い、くらくらした。
(なんで、こんな……っ!?)
まさか本当にこいつが自分のツガイなのだろうか。
そうとしか考えられない、なにか薬でも盛られたような快楽が、ただ向かい合い抱きあうだけで背を這いのぼってくる。抵抗しようとした手は力なく、相手の腕をすがるようにつかみ、引き寄せられた肩口に頬をすりよせてしまう始末……リウは為すすべもなく、とろりとした快楽の波に飲み込まれどうしようもない。
「まだ、俺のことを受け入れがたい……? ツガイだってこと、認められないかな。だったら、」
視界が回った。
天井が見え、こちらを上からメルヒオ―ルが覗きこんでくる。切れ長のうつくしい瞳に、懇願するよう切なげな感情がのせられて、その視線が自分をまっすぐに射ぬいてくる。
思わず息を飲んでいた。毛足の長いじゅうたんの上に押し倒され、メルヒオ―ルが馬乗りになっている。
ゆっくりと降りてくる唇が、抗いがたい声で言った。
「……教えてあげるよ。きみが認めるまで……俺のことを拒めないんだって、そう思いしって名を教えてくれるまで。いくらでも、その体にじかに、教えてあげる」
どくり、と心音が鳴った。
反応する前にもう、唇が重ねられている。
吐息がどうしようもなく甘く注ぎ込まれ、腰が疼く。
「んっ……んんっ!?」
顔を振り相手を離そうとしても、頭をつかみ横からまた深く舌を吸われてしまった。
(だ、めだ、こんなのっ……!)
はやく離れて、自分はいま喋れないんだということを示さなければ、メルヒオ―ルの行いはどんどんエスカレートしていきそうだった。
リウの喉に仕込まれた生体機械は、頭で考えた言葉だけを殺すものだ。反射的にもれる喘ぎは通してしまうので、そのことが余計に「自分が名を告げるのすら拒んでいる」と、相手に勘違いさせているらしい。
涙でにじむ視界に、メルヒオ―ルのぎらつく獣じみた目が見え、強く求められているとわかりパニックになった。
体は勝手に与えられる快楽を追っていき、無意識に相手の背に手を回し、舌を絡めている。
(ほしい、もっとほしい……!)
(だめ、なのに……っ!)
「あっ!?」
腰から服の下へ入り込んできた手が、胸元へ伸びてきていた。舌を絡めたままで胸の飾りをいじられると、ポロポロと快楽から涙がこぼれた。
「っ、ぁ、あっ! やっ、ぃやぁ、……あぅっ!」
もはや声すらおさえられない。
じんと熱い胸を触られ、乳首をつままれ、爪で軽くひっかくようにコリコリ転がされる。
それを同時に、左右ばらばらの動きで両方いじられたとき、思わずひざをすりあわせ、腰を揺らしていた。
(あっ、もう、そこいやだ……!)
快楽によりとめどない涙は止まることなく流れ落ちる。
男は糸の引く舌を離すと、笑いながら涙を舌ですくいなめてきた。
「気持ち良さそう。ここがいい?」
「んっ、……ぁ、ぃやぁっ、……やっ、め……っん」
両手で双方の胸飾りをつまみ、こねられ、ぐにぐにと指で押し潰される。
やむことのない快楽の嵐に、ちかちかと瞼裏に星が散った。
(あっ……もう、だめ、だぁっ)
いきそうになった寸前でようやく、男は手を離した。
荒くなった自らの口は開ききり、舌を出しはあはあと、だらしなく涎まで垂れてしまっていた。
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