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第6話
家に着いた頃には、もうのまれそうになっていた。
布団の上にたどり着いても、熱はおさまる気配がなく積み上げられていく。
つらい、あつい、くるしい、たすけて、
だれか、とめて、して、めちゃくちゃ、して、
あさひ…いないの?
ちがう、…朝陽はダメだ。
見せられない。
朝陽…あさひ……電話。
だめ、だめ、だめ、呼ぶな。
コール音が聞こえる。
電話、出て…出るな…出て…
出ないで、
『もしもし?』
「…ッ!!」
電流が、走った。
スマホは手から滑り落ちて、微かに自分を呼ぶ声が聞こえたけど、気にする余裕はなくなっていた。
電話口の声がやけに頭の芯まで響いた。
じん、と身体が痺れる感覚。
朝陽の声を聞いたせいで、どんどん波にのまれていく。
強制力を持つそれに、頭や身体を動かして必死で抵抗するけど、引くどころか勢いを増していくばかりで止まらない。
「んっ…」
服の布擦れでむずむずしてきた…邪魔だ。
上着を脱いで、それでも変わらなくて、結局着ていたニットも脱いで、下半身も下着だけになった。
「ふ…、う」
布団に下着越しにモノを擦り付ける。
今はこの熱をどうにかしたい。
一人で、惨めな行為をしてでも。
「あ…さ、んっ…ぁさ…ひ」
咎める人なんていない。
誰もいないのが幸い………
「裕太」
誰もいないままなはずがなかった。
電話口から声が聞こえていたのに。
「…ぃや、」
俺の人生、終わった。
一番見られてはいけない人に見つかってしまった。
自分がおかした失態のせいで。
朝陽は部屋の仕切りの前で、ただ見ていた。
嫌な顔もせずに、ただ俺がしていることを見ているだけだった。
「いやだ…見ないで、…見るなぁっ」
そんなことを言っても、動くのをやめられないとか。
なんて無様で醜いんだろう。
ゆらゆらと視界が揺れて朝陽の姿も見えなくなって、瞬きしたらいつの間にか朝陽が傍まで来ていた。
「裕太、俺にはなんでも言って。裕太のこと守りたい」
あの日と同じ台詞。
「裕太のためなら俺、なんだってする。だから裕太のしたいこと、言って?」
初めて聞いた言葉。
朝陽、だめだ…正気じゃない。
「…わ、ない」
「裕太」
「いわない、絶対に」
言ったら、朝陽は俺の言う通りにしてしまう。
そこまでいったらだめだ。
「裕太、俺に迷惑かけないようにって隠してたんだね」
「違う…」
「…自分のため?」
朝陽からそれを言われると、何もかもどうでもよくなった。
そうだ。
もう見られた時点で朝陽とのこれからは無くなったんだから、今どうなろうと関係ない。
「そうだよ、Ωってだけでみんな見下してきて!腫れ物に触るみたいに接してっ…お前にまでそんな風に見られたくなかった!俺のためならなんだってするって言ったよな?じゃあ、セックスの相手してくれよ。今身体中疼いて仕方ないんだ」
本当のことだ。
さっきからずっと目の前にいる人を心が、身体が、欲しがってる。
こんな動物みたいな奴、捨てられる。
朝陽が離れていくなら、優しさなんて要らない。
「酷くしてよ…」
「わかった」
朝陽、ごめん。
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