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1.バース検査
この世界には、一般的な男女の性別の他に、バースと呼ばれる三つの特性がある。
生まれついてのエリートであるα 。
ごくごく一般的で数の多いβ 。
そして、男女問わず妊娠する事ができるΩ 。
一般的にバースが確定するのは、小学五年生頃とされる。確実なのは小学校を卒業した足で病院へ行き、バース検査を受ける事だ。
俺も卒業式の後、父が院長を勤める病院で検査を受けた。年子の弟と一緒に――
そのバース検査の結果、俺はΩ、弟の隆明はαだった。
しかしその結果は、両親にはとても受け入れられない物だったらしい。
「嘘……隆幸 が、Ωですって……?」
俺を見る母の目が、悲しそうに歪む。
それもそのはずだ。
将来、父の跡を継いで病院長になるよう期待されていた俺が、α ではなかった。
しかもΩは定期的に発情 を起こすため、まともに働く事もできない、社会的地位の低い人間だとみなされている。
父は激昂した。
「私の息子がΩなど、あってはならない!」
「そうよ。何かの間違いよ!」
事実を受け入れられなかった両親は、あろうことか書類を偽造し、俺のバースは『α』として戸籍登録された。
――きっとこれが、最初の間違い。
それから、俺はΩだとバレないように、必死で勉強した。
そのお陰か、元から要領は良かったのか、俺は常に学年トップの成績を修めている。
「凄いわ隆幸。隆幸は本当に優秀なαね」
母がとても喜んでくれるので、俺も最初は嬉しかった。
「隆明! あなたはαなのに、こんな問題も解けないの!? もっと勉強しなさい」
隆明だって、成績が悪い訳じゃない。トップは逃すものの、いつも学年二位か三位には入っている。
その時に気付いた。
母は、俺がΩ な の に トップだから褒めてくれるのだ。
母が必用としているのは、より優秀な『α』だけ。
だから母は、本 物 の αなのに、Ωである俺より劣る弟を怒るのだ。
それがわかってから、母の賞賛を素直に喜べなくなった。
その内、母との関係もギスギスしてきて――
唐突に、母が亡くなった。
原因は交通事故。
運転手が心臓発作を起こし、暴走した車が、たまたま所用で病院を出た母に追突したらしい。
何時間も手術をしたけれど、母は助からなかった。
「さより……」
母の葬儀が済んで憔悴 した父は、みるみる老け込んでいき、仕事を休みがちになってしまった。
そんな父を『かわいそう』なんて思わなければ――
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