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4.運命の番

 数年後。  俺はバースを『α』と(いつわ)ったまま、内科医になった。  元々勉強は得意だったので、バースを疑われた事はない。  翌年には隆明が外科医になり、父を喜ばせた。  それなのに―― 「父が……亡くなった……?」  心臓発作――だったらしい。  学会から帰る途中。  タクシーの内で渋滞待ちをしていて、急に苦しみだしたと聞かされた。  病院に着いた時には、もう意識が無く、そのまま―― 「――これで、兄さんは僕の物だ」   *  *  * 「兄さん!」 「うわっ!」  ロッカーで着替えていると、隆明が急に後ろから飛び付いてきた。 「今帰り? 一緒に帰ろう」 「わかった。わかったから、離れろよ」  父が亡くなってから、隆明はどこでも遠慮なく抱き付いてくる。  隆明がこんなに甘えん坊だとは知らなかった。  発情(ヒート)の時以外のセックスも減り、やっと普通の兄弟に戻れた気がする。  ――あの人を見付けるまでは。  俺が勤める病院はエントランスが吹き抜けになっていて、二階から見下ろせるようになっている。  中央の階段に向かって歩いていると、不意に首の後ろがチリッとした。  痺れにも似たその感覚に、俺はハッと息飲んで、辺りを見回す。 「兄さん?」  怪訝な顔をする隆明に応える余裕もなく、とっさにエントランスを見下ろした。  医者と患者が入り交じる中に、同じく周囲を見回している人がいる。  その人が上を向き、目が合った。  知らない男性だ。  スーツを着ているから、患者だろうか?  その人から目が離せないでいると、急に腹の底が熱くなってきた。  ――発情(ヒート)だ。 「兄さん!」  しゃがみ込む俺を支えるように、隆明が肩を抱く。 「酷い熱だ……ずっと無理してたの?」  周りをごまかそうとしてか、隆明が俺の額に手を当てる。 「隆明……」 「何? 気持ち悪い? すぐトイレに連れて行くから」  俺の腕を肩に回した隆明が、問答無用で近くのトイレに行った。  幸い誰もいなかったトイレの個室に二人で入り、隆明に後ろから犯される。 「あ……んぁ……」 「兄さん……あの人が、運命の番なの……?」  快感に呑まれた俺は、何も考えずに頷いていた。  隆明が苦しそうに呻く。 「渡さない……例え運命の番でも……兄さんは絶対に渡さない!」 「あっ、あ、ああああぁぁぁッ!」
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