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第3話
社会人の長兄、一縷兄ちゃんは俺と樹を駅まで送ってくれる。去年まではそんな事はなかったんだけどな、やっぱりΩの末弟、樹が兄ちゃんは心配なのだろう。
優秀だと言われるαの例に漏れず学業も運動も常にトップの成績を修めてきた兄は俺の憧れだ。
けれど俺はβでどう足掻いてもαの兄の隣に並べないという現実が俺を卑屈にさせ、兄の事は嫌いではないが最近はどう接していいかも分からなくなってきた。如何せん年齢が6歳も年上なものだから一緒に遊んだ記憶もあまりなくて、実は俺あんまり一縷兄ちゃんの事はよく分かってなかったりするんだよな。
俺と兄ちゃんはそんな感じなのに俺とは逆に末弟の樹は一縷兄ちゃんにべったりで昔から兄ちゃんに可愛がられている。樹は末っ子らしく甘え上手で一縷兄ちゃんだけではなく双葉兄ちゃんにも三葉兄ちゃんにも可愛がられている、もちろん俺だって樹は可愛い、だけど俺だって可愛い弟のはずなのに……なんて思ってしまうのはやはり俺が卑屈なせいなのかな……別に羨ましくなんてないっ! と思いながらも、こういうあからさまな差別をされると少しだけもやっとしてしまう。
「2人とも気を付けて行くんだぞ」
兄はそう言って車の中から俺達を見送り、自分も会社に向かうのだけど本当はこの時間だと兄の出社には少し早すぎる時間なのだと俺は知っている。一縷兄ちゃんは樹の為にわざわざ早く家を出るようになった……別に俺がどうこう言う事じゃないけどさ!
「四季兄、行こ」
可愛らしく微笑んだ弟、樹が俺の腕を取る。いや、いい年した兄弟でそれはないだろう? と思うのだが、周りから送られるのは羨望と嫉妬の眼差し。分かってる、樹が女の子に間違われるのは昔からで、全く似ていない俺達2人が兄弟に見える事なんてないんだ。
つまり当然、樹は俺の彼女のように周りには見えていて、豚に真珠、美女と野獣とでも思われてんじゃねぇのかな……
「四季、その子誰? 可愛いね」
目をハートマークにして寄ってくる友人達を蹴散らかし、近寄んなと威嚇する。樹は可愛すぎてαどころかβの奴等も寄ってくるから本当に困る。
「樹、お前ちゃんとフェロモンの抑制剤は飲んできてるんだろうな?」
「ちゃんと飲んでるよ! 僕だってちゃんと自衛対策はしてるんだからっ」
「だったらいいけどさ」
キング・オブ・モブである俺は護衛としては少しばかり頼りない人間である事は否めない、もし何かあった時、兄として樹を全力で守る覚悟はあるが、喧嘩はあんまり強くないんだよなぁ……できれば俺は平穏に高校生活を過ごしたいんだよ、ホントはな。
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