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第7話

湯船につかって天井を見上げる。この家に生まれて特別不自由な思いをしたことはないけれど、やっぱり少しだけ面倒くさいなと俺は思う。 Ωの弟がいるから俺はそんな弟を守る為に奔走しなければならないし、優秀過ぎるαの兄達がいるから俺はそんな兄達に相応しい弟でいなければいけないのだ。 息苦しいなとそう思う。誰も俺を俺個人として見てくれない、俺はいつでも誰かのおまけ、兄弟を恨みたくはないけれど、もっと普通の家に生まれたかったな……と俺は大きな溜息を零した。 風呂から出ると一縷兄ちゃんはまだリビングに居て、別に兄ちゃんがどこで何をしてようが構いはしないのだけど、テレビなんてろくに見ない人が珍しい。 「なんか面白い番組でもやってんの?」 ひょいと俺が背後から覗き込んだら、兄はびくりと振り返った。 「あれ? もしかして寝てた?」 「いや……」 やはり兄さんの言葉は少なく首を傾げたら「お前の髪も拭いてやろうかと……」と続いたので思わずきょとんとしてしまう。 「別に自分でできるし、いらない」 「あ……あぁ、そうか……」 なんか、兄ちゃん少しだけしょんぼり顔なの何でかな? 一縷兄ちゃんは言葉は少ないが割と面倒見はいい。なにせ下に4人も弟がいるからな。さっき樹の髪を拭いてやってたし、同じようにしてやろうとでも思ったのかな? 別にそれも今までやってくれた事はない癖に変なの。 「四季は学校で何か困った事とかないか?」 「ん? 別に何もないよ」 「そうか……彼女とは、うまくやっているのか?」 あれ? そういえば俺フラれた事報告してなかったっけ? ってか格好悪いし、別に言わなくてもいいかと思ってたんだけど心配してたのかな? 「彼女とは別れたよ」 「え?」 「フラれたんだよ、樹と比べられたくないってさ。俺、そんな事しないのにな」 瞬間兄ちゃんの顔がぱあっと笑顔になって、その後すぐにそれを戒めるように元の顔に戻ったんだけど、ちょっと感じ悪い。 「なに? 俺がフラれて兄ちゃんそんなに嬉しいの?」 「いや、ちが……」 「そりゃあ、兄ちゃんはモテモテで彼女なんか選びたい放題だろうし、俺みたいに理不尽な理由でフラれたりしないんだろうけどさ、それにしてもちょっと酷くない?」 「誤解だ、四季。俺は決してお前がフラれた事を喜んだわけでは……」 「嘘だぁ、今絶対笑った! 兄ちゃん最っっ低!」 この家の中で俺はいつでも劣っている。そんな事は分かっていて、受け入れて生きてきたけど、そんな俺を家族は馬鹿にする事はしないって思ってたのに兄ちゃんは違ったんだ。 悔しいし悲しくて俺は踵を返した。背後から「四季、誤解だ!」と兄の声が追いかけてきたけど、もう知らない。兄ちゃんなんて嫌いだよ!

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