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第9話

二段ベッドの下段が俺の寝床なのだが、上段の樹はもう寝入ってしまったのか微かな寝息が聞こえてくる。 もう、寝る気満々でいたのだけど、何故か樹の言葉が心に残って寝られない。 『兄弟でも、結婚出来たらいいのにな』 Ωの樹は男性体だけどαとの間になら子を成せる。兄弟で結婚はさすがに法律上難しいけれど、もしかして樹は一縷兄ちゃんが好きなのかな? 兄の中の誰とは言わなかったけれど、樹は一縷兄ちゃんに懐いている事が多い。 でもまぁ兄弟だとかそういう話は置いておいて、お似合いだよな……とは思うのだ。 樹は女の子と見紛うばかりに可愛いし、一縷兄ちゃんは言葉は多くないがとても優秀な人だ。そんな2人が並んで、その腕の中に小さな可愛い子供がいたら、そこにはお似合いのカップルが現れる。 兄弟でそんな妄想をする事自体間違っていると思うのだけど、俺はいいなと思うのだ。 だって、どうやったってそこに俺は入り込めない。兄弟の誰の隣に立っても俺は不釣り合いで不格好なんだ、そんな事は知っていたけど、それでも少し悲しくなった。 「お前、目の下のクマが酷いぞ?」 「なになに、何か悩みでもあんの? 兄ちゃん達が聞いてやろうか?」 何だかんだとぐるぐると考え込んでいたら結局上手に寝られなくて、朝、洗面所に向かったら双子の兄に絡まれた。 双子の兄は本当によく似ている、けれど俺にはちゃんと分かってる。向かって右が双葉兄ちゃん、左側が三葉兄ちゃん。わずかな差異ではあるのだが、つむじの向きが逆だったり、首筋のほくろの位置が線対称だったり、そういう細かい見た目が違ってる。 それに喋りでも何となく区別はつく。大体先に口火を切るのが双葉兄ちゃん、その後呑気に続くのが三葉兄ちゃん、生まれ順の通りに三葉兄ちゃんは少しだけ双葉兄ちゃんよりのんびりなのだ。 「別に何でもないよ。それにしても相変わらず兄ちゃん達仲良いね」 洗面所にいる兄ちゃん達の現在の格好は双葉兄ちゃんがズボンだけを履いた上半身裸で、三葉兄ちゃんは上半身だけ寝間着を着ている状態。要は2人で一枚の寝間着を共有している形だ。いや、お揃いの服を着ている事も多い兄ちゃん達なので、もしかしたらそれぞれの寝間着なのかもしれないが、傍目にはそうとしか思えない。 そしてそんな恰好で双葉兄ちゃんは三葉兄ちゃんの背後から抱きついて歯を磨いているのだから目のやり場に困る。もうほぼ毎日の光景なので見慣れてはいるけれど、それもどうなの? と思わなくもない。 「仲良いかな?」 「普通じゃね?」 いや、それ絶対普通じゃないから! 「俺、いつも思うんだけど、もし兄ちゃん達のどっちかに恋人とか出来たらどうすんの?」 昔からの素朴な疑問。モデルをしているだけあって、モテモテな兄達だが今まで恋人の話は聞いた事がない。けれど、そんな俺の疑問に「「え? もういるけど?」」と、2人の声が綺麗にハモる。 「うっそ! 俺聞いてない! え? どっち!? 2人とも?」 「まぁ、2人の恋人だし? 2人ともかな?」 「そうそう、俺達2人の可愛いΩちゃんだよ」 え…… 俺が言葉を失くして絶句していると、2人はけらけらと笑いだす。 「いつだって俺達は2人でひとつ」 「だから恋人も半分こ」 「ちょ……それ、相手も納得してんの!?」 「勿論だよ」と2人は頷き、またけらけらと笑う。 「2人とも愛せなきゃ駄目なんだ」 「それが俺達の恋人になる絶対条件だからね」 我が兄ながらびっくりだ。2人はそんな俺を尻目にキスをしている。これも割と日常風景なんだけど、まさかそこまでだとは思ってなかったよ……驚いた。

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