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第11話
目を覚ますと、そこはベッドの上だった。自室ではない無機質な白い壁に、ここは何処だ? と身動ぎをしたら「目が覚めたか?」と一縷兄ちゃんに顔を覗き込まれた。
「気分は悪くないか?」
「俺……どうしたんだっけ? ここ何処?」
「病院だよ、お前は暴行を受けて気を失っていたんだ。幸い外傷は青痣程度でそこまで酷くはないけれど……」
そこまで言って兄が俺の肩口を撫でる。俺はそこにぴりっとした痛みを感じて眉を顰めた。そう言えば俺、あの特待生に噛み付かれたんだった。どうやら患部は既に何かしらの手当てがされているようで、その痛み以外は特に感触もないけれど、全く酷い目に遭ったものだ。
「樹は……?」
「発情期 が始まっていたから、母さん呼んで先に家に帰らせた」
「無事……?」
「あぁ、無事だよ」
「そっか、なら良かった……」
安堵と共に身体の節々が痛む。骨に影響はなかったみたいだけど青痣だって内出血だ、しばらくはこの身体の痛みと付き合わないといけないのかと溜息が零れた。
まぁ、それでも樹が最悪な事態にならなくて良かったよ。
「吐き気や特別不調がなければ帰ってもいいと医者に言われているが、どうする?」
「んん……特にそういうのはなさそう、かな?」
俺の言葉に頷いた兄は「待っていろ」と言い置いて、病室を出て行った。
あぁ、それにしても身体が痛い。のろのろとベッドから起き上がり、帰り支度を……と思った所で兄が病室に戻って来た。
「何をしている? 大人しく待っていろと言っただろう?」
「別に全く動けない訳じゃないんだし、帰り支度くらい自分で出来るよ」
「そこまで酷くないとは言えお前は怪我人、大人しくしていろ」
そう言って兄はてきぱきと俺の帰りの準備を整えると、さも当然とばかりに俺を抱き上げた。
「!? ちょ……兄ちゃん!?」
「ん? 車椅子の方が良かったか?」
「そういう問題じゃない! 俺、普通に歩けるよ!」
「怪我人は大人しくしていろとさっきも言ったな?」
「それにしても、こんなの恥ずかしいだろ!」
「何を恥ずかしがる必要がある? お前は怪我人だと何度も言っている、こんな時くらい甘えてくれたっていいだろう?」
甘えるとかそういう問題か? 子供じゃないんだから普通に考えてこれはおかしいだろ? 俺はおろしてくれと兄に何度も言ったのだが、結局そこは兄も譲らず、俺は兄に抱かれたまま病院を後にした。
あぁ、恥ずかしくて、もうあの病院行けないよ……
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