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第12話

病院からは兄の車で、当然車から降りた後はまたしても抱き上げられた。しかも今度はお姫様だっこ、恥ずかしすぎる……しかも、そのまま連れて行かれたのは自室ではなく、何故か兄の部屋。 「なんで、こっち?」 「樹が発情期(ヒート)なの忘れたか?」 あぁ、そう言えばそうだった。いつも樹が発情期(ヒート)の間、俺は部屋を締め出される。そういうものだと分かっているし、3か月に一回、1週間程度の事なので今までも俺はその期間をリビングで過ごすか、兄の部屋に転がり込むかして過ごしていた。でも、一縷兄ちゃんの部屋は久しぶりだな…… 「俺、リビングでいいよ」 「駄目だ。少なくともその傷が癒えるまで、お前の面倒は俺が見る」 ひどく真面目な表情の兄、けれどそれが何故なのかが分からない俺は「……なんで?」と、思わず首を傾げた。 「別に怪我だって大した事なかったし、まだ節々痛むけどそれだって直ぐに……」 「四季はそんなに俺に構われるのが嫌なのか?」 ひどく拗ねたような表情の兄、別にそう言う訳じゃないけどさ。 「だって、兄ちゃんは仕事もあるし、そんな……」 「仕事なら一週間休みを貰って来た、俺はお前達をこんな目に遭わせた奴を叩き潰さないと気が済まない、だからこの休暇中に徹底的にやるつもりでいる。有休も溜まっていたんだ、ちょうどいい」 ……え? 「だからお前はしばらく家で安静にしていればいいし、お前の面倒は俺が見る」 にっこり笑顔の兄ちゃんが怖い。 「兄ちゃん、あいつに何する気?」 「お前は何も気に病む必要はない」 いやいや、気に病むとかそれ以前の問題だろ!? 特待生の取り消しくらいはなっちまえって俺も思ったけど、一体あいつに何する気だよ!? 「お前にこんな傷を付けたんだ、相応の代償は払ってもらわなければな」 そう言って兄が俺の肩口を撫でた。またしてもぴりっと引き攣れるような痛みを感じて俺は眉を顰める。 「別に俺Ωじゃないし、噛まれたくらいじゃどうにもならないし」 俺があの特待生に噛まれたのは肩口だったのだが、たぶん奴が本当に噛みたかったのは俺の項(うなじ)なのだと思う。 バース性の人間は本能で番相手を選び、その相手を選んだらαがΩの項を噛んで晴れて2人は番になるのだ。樹のフェロモンにやられたあの特待生は、性的欲求に負けて見境なく俺を襲った、それは本能から起こる行動なのだとバース性家庭で育った俺は知っている。 俺が出て行けと言った時点であいつがあそこから退散してくれていたら、こんな事にはならなかった……発情期が近いのに無防備でいた樹も悪い、けれどαの側だって、自分がΩを傷付ける行動を取らないように気を付けるのは最低限のマナーだ。 「そういう問題じゃない、理性の弱いαは害悪だ、だからこうやってお前は傷付けられた、俺はそれが許せない」 兄が何度も何度も指で俺の肩口に残っているのであろう噛み痕を撫でる。それ痛いから止めてくれないかな……それにしても兄ちゃん、これでいてガチでぶち切れてたんだな、淡々としてるもんだから気付かなかったよ。

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