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第13話

「俺は大丈夫だってば!」 改めてもう一度一縷兄ちゃんにそう告げると、兄ちゃんは「お前はいつもそうだ」と眉を顰めた。 「自分の事はいつも二の次で、なんでお前はそうなんだ?」 「そんな事言われても、別に俺なんか誰も……」 「それ! お前の悪い癖だ。なんでそんなに自分を卑下する? お前が自分を卑下する事はお前を心配している皆を卑下するのと同じなんだぞ! 俺は弟の中でお前が一番可愛い、それをお前が否定するな!」 少しの沈黙、今兄ちゃんなんて言った? 「一縷兄ちゃんの一番のお気に入りって樹じゃないの……?」 「樹だって勿論可愛い、それに樹はΩで守ってやらなければならない場面が多いから構っているように見えるかもしれないが、俺が一番……っ」 そこまで口走った所で兄がしまったという表情を見せた。俺が一番の続きは何? そこ意外と重要な所なんじゃないのかな? 言葉の続きを待って俺が兄の顔を見ていると兄はふいと視線を逸らし「理性の弱いαは害悪だ」と小さく呟く。そのセリフはさっき聞いたけど、何がどうしてそこに繋がるのか分からない俺はまた首を傾げる。 あの特待生が害悪なのは分かったよ、で? 俺が一番……の続きは? 「お前はその傷が癒えるまで、ゆっくり休め」 「誤魔化した!」 「そこは告って押し倒す所だろ!?」 賑やかな声が聞こえてきて俺はびくっと身を震わせる。気付けば部屋の扉が細く開いていてその隙間から双葉兄ちゃんと三葉兄ちゃんがこちらを覗き込み「「それはないだろ」」と声を揃えた。 「双葉! 三葉! 何をやってるお前達!」 「遂に兄ちゃんが四季を部屋に連れ込んだと聞いて」 「2人揃ってデバガメに来たに決まってる」 「ね~」と声を揃える双子の兄、一縷兄ちゃんは困ったような怒ったような表情で大きく溜息を吐いた。 「見世物じゃない、散れ!」 「兄ちゃん酷い」 「俺達だって兄ちゃんの可愛い弟なのに!」 「お前達は可愛くない!」 「更に酷い、兄ちゃんは昔からいつもそう!」 「ホントそう! 下の弟達ばっかり可愛がって俺達の事なんていつも蔑ろ!」 「お前達はいつも2人で世界が完結していて、最初から誰も入れる気なんてない癖によく言う!」 兄3人の会話の応酬に俺が口を挟めるわけもなく、俺は黙って兄ちゃん達の会話を聞いている。 それにしても双子の兄ちゃんS’は一縷兄ちゃんと普通に喋れていいなぁ、最近俺は一縷兄ちゃんとはどうにも上手く会話ができないでいるので正直に羨ましいと思う。 「兄ちゃんは倫理観が邪魔をして入ってこれないだけだろう?」 「そうそう、俺達はいつでも来るもの拒まず、去る者追わず」 そう言って、双子の兄ちゃんS’は楽しそうにキスをする。だけどさ、確かに2人の世界は2人の中で完結していて、そこに余所から入っていくのは正直難しいと思うよ? そんな2人の世界に割って入ったらしい彼女さんは凄い人だと俺は思う。 「お前達は緩すぎなんだ!」 「「そう?」」 声を揃えて兄ちゃんS’は首を傾げる。 「でもさ、元々うちの両親だって似たようなもんじゃん?」 「そうそう『運命の番』の相手が兄弟姉妹だなんて、よくある事だと思うけど?」 『運命の番』それはバース性の人間の間でまことしやかに流れる噂話。誰にも引き離す事の出来ないただ一人の運命の相手。そんな相手に出会ったら、惹かれ合わずにはいられない、そんな相手がバース性の人間の間には存在しているらしい。 それがどういう感覚なのかはバース性ではない俺には皆目分かりはしないのだが、バース性の人間ならばお互いが一目見たその瞬間に分かるのだと聞いている。 そして、うちの両親は実を言えば腹違いの兄妹だったりするんだよな……倫理的にも法律的にも許されていない、だから2人は籍も入っていないけど、俺達はこうやって普通に家族として暮らしている。 勿論そんな風に暮らせるようになるまでには紆余曲折あったらしいけど、今だって両親の夫婦仲は良好だし、別にそれはそれでいいんじゃないかと思っている。 一縷兄ちゃんの名前の由来「一縷」は親族に関係を反対されていた両親が一縷の望みをかけて産んだ子だからなのだと聞いている。それを聞くとちょっとロマンチックな感じがするよな。

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