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第15話
一縷兄ちゃんが顔を上げて、ようやく俺の方を向いた。その耳はやはり気持ち赤らんでいて、俺もどんな顔をしていいのか分からない。
兄ちゃんの腕が伸びてきて、その腕が俺の肩を抱いた。
「本当はずっとこうしたかった。昔からお前の匂いが一番好きだ」
「匂い……?」
「バース性の人間は匂いで好き嫌いを嗅ぎ分ける、βの人間から言わせれば匂いフェチに近いのかもしれない、フェロモンに過敏に反応するのもそのせいだ」
そう言って兄は俺の首筋に顔を埋める。髪の毛がさわさわと首筋を撫でて、少しだけくすぐったい……なんて、思っていたら首筋をぺろりと舐められた。
「なっ!?」
「理性の弱いαは害悪だ、そうならないように気を付けていたんだが、よその男 にこんな傷を付けられて、黙ってなどいられるか!」
そう言って兄はそこに噛り付く。痛い、痛い、痛いってばっっ!!!
そのままの勢いでベッドの上に押し倒されて怖くなった、兄ちゃんは一体俺をどうする気!?
「そのまま誤魔化されておけば良かったものを……」
それって俺のせいだった? 兄ちゃんの真顔が怖い。
するりと服の中に兄ちゃんの手が忍んできて直に肌を撫でられた。
「こんなに青痣を作って、どれだけ俺を心配させる気だ!」
「それ、俺のせいじゃないしっ」
これは樹の発情に惑わされたαのしでかした事で、俺には一ミリも非はないはずなのに何で俺が責められなきゃいけないんだろう?
「俺は常々気を付けろと言っていたのに」
「それ、樹にだろ?」
「俺はいつでも『2人とも』と言ってたはずだが?」
あれ? そうだっけ?
「でもさ、だけど今まで俺の事は兄ちゃん放りっぱなしだったじゃんか、樹が入学したから最近は車で駅まで送ってくれるようになったけど、今まで何もしてくれなかった!」
「1年の時は双葉と三葉がいたからな、2年になってからは何度か声をかけたぞ? その都度いらないと言ったのはお前の方だ」
えぇ……全然覚えてないんだけど……
「樹が入学してからは樹はそれを当たり前としてるから四季も一緒にって形になったが、別に俺は樹を特別扱いしていた訳じゃない!」
そうだっけ? そうなのか……? もしかして俺ってば勝手に勘違いして勝手に拗ねてただけ?
「でも兄ちゃん、今までそんな事は一言も……俺に彼女が出来た時だって『お前は子供だ』とは言ったけど、別に反対もしなかったじゃないか」
「どう頑張った所で俺とお前は兄弟だ、そんな事……言える訳がないだろう? 父さんと母さんはそれでも腹違いで半分しか血は繋がっていないが、俺達は正真正銘100%混じりっ気なしの兄弟だ。しかもお前は男でΩですらない、そんな事言い出せる訳がないだろう?」
確かに、告白するにはちょっとハードルが高すぎるかな。双葉兄ちゃん三葉兄ちゃんみたいな例もあるから一概には言えないけど。
俺の顔を覗き込んでくる兄ちゃんが、まるで何かを吹っ切ったかのようにもう一度「好きだ」と耳元に囁く。
「逃げるなら今逃げろ、そして忘れろ」
兄の大きな手が肌を撫でる。今逃げれば俺達は何もなかったただの兄弟に戻れるの? 忘れろって言われて忘れられると思うのか?
『兄弟でも結婚出来たらいいのに』という樹の言葉に悶々と悩んでいたのは、俺にはその資格すらないからだ。俺は兄ちゃん に愛される資格すら持ち合わせていない。
なのに今、兄ちゃんは俺を選ぶとそう言うのか? αに愛される事を運命づけられたΩではなくただのモブでしかない俺を? でも、もしそれが本気だと言うのなら……
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