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第17話
「ぬけがけだ……」
発情期 の終わった樹は少しばかりやつれた表情で、こちらにじっとりとした視線を投げて寄越す。
「僕が発情期で苦しんでる間になんでそんな事になってんの!?」
現在俺は一縷兄ちゃんの膝の上、何故だかここ数日俺の定位置はこの場所で、上げ膳据え膳は当たり前、大した怪我でもないのに完全看護。『抱っこして』とおねだりしたのは俺だけど、さすがにやり過ぎなんじゃと思わなくもない。
「ぬけがけしないって、あれほど約束してたのに! 一兄の嘘吐き!!」
「これは四季が選んだ事だ、あくまで四季の意思は尊重すると、それも約束していたはずだろう?」
「そうだけど! でも、何で!? 最近ずっと四季兄は一兄の事避けてたじゃん!」
「その辺の誤解はもう綺麗に解けた。なぁ、四季?」
「え……えっと、まぁ……」
俺は一縷兄ちゃんは樹の事が好きなのだとばかり思っていた、それが弟を逸脱したものなのかどうかまでは考えていなかったけど、そうではなかったと言葉にしてもらって納得して、好きだと告げられこの現状。ちなみにまだ清い仲。
「ねぇ、四季兄、本当に一兄でいいの? そもそも四季兄ってそっちだった?」
「ん? そっち?」
「だって四季兄ちょっと前まで彼女いたじゃん! せっかく頑張って別れさせるのに成功したのに……あっ……」
しまったという顔で樹が口元を抑える。別れさせるってどういう事だ? ってか、そっちって何?
「樹、そういえばお前、四季が彼女と別れたの知ってて俺に黙ってたな?」
「別に隠してた訳じゃないよ、僕だって四季兄からは聞いてないもん」
「でも知ってたんだろう?」
なんか雲行き怪しいし会話は見えないし、どういう事だ? 樹は俺が彼女にフラれた事を知っていた? というかむしろ何かした?
「別に小耳に挟んだだけだよ、四季兄の元カノって僕の中学時代のクラスメイトの姉ちゃんだったからさ」
「本当にそれだけか?」
「言っとくけど別れさせたって言っても僕は特別何かはしてないよ、クラスメイトにちょっと姉ちゃんのスケジュール聞いて、それにぶち当てて四季兄とデートしてただけだもん!」
俺が彼女にフラれた理由。それは彼女が樹と比べられるのを嫌がったからで、そう言われてみるとあの日の樹はいつも以上に俺にべたべたしていた気もする。もしかして樹はあの日彼女にわざと俺達が仲良い所を見せつけた……?
「なんでそんな事を……?」
「だって四季兄を女に取られるのヤだったんだもん! 僕の方が絶対あの人より可愛いし、絶対僕の方が四季兄の事好きだもん!!」
………………え?
「なのに、ぬけがけするなんて、一兄の馬鹿ぁぁぁぁ!!!」
樹がべそべそと泣き出した。俺はどうしていいのか分からずに狼狽える。
「あぁ~あ、泣かせた」
「だから四季はやめとけって言っただろ?」
俺達の様子を遠目ににやにや観察していた双子の兄ちゃん達が現れて、代わる代わる樹の頭を撫でて慰める。
「元々勝ち目のない勝負だったんだよ」
「そうそう、兄ちゃんのあからさまな贔屓に気付いてないのなんか本人だけだ」
「俺達だって、こんなに理想的な恋人いないと思ったもんなぁ?」
「ホントそれ、ちゃんと俺達を見分けてくれて、俺達のこの生活を受け入れてくれる貴重な人材だったのに」
「まぁでも、兄ちゃんが嫌になったらいつでも俺達の所に来ればいいよ?」
「「俺達いつでもウェルカムだから」」
双子の兄ちゃんS’の流れるようなセリフの応酬、最後には声を揃えて両側から頬にキスをされた。
「双葉! 三葉! 四季に触るな!」
俺をぎゅっと抱き込んで一縷兄ちゃんが2人を威嚇する。
あれ? 俺ってば意外と皆に愛されてた? この家の中では俺だけが異質で、俺だけがその他大勢のモブの1人なのだと思っていたのに、これはちょっと予想外だぞ?
「僕もまだ諦めないから!」
樹が涙を拭ってきっとこちらを睨む、俺をというよりは俺の背後の一縷兄ちゃんをだな。
この2人は仲が良いと思ってたんだけどな?
「全ては四季が決める事だ」
そう言いながらも兄ちゃんの俺を抱く腕は緩まない。なんだか可笑しいの、一縷兄ちゃんってば言ってる事とやってる事がばらばらなんじゃないのかな?
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