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第26話(side一縷)
性の目覚めの起こる中学生。初めての夢精の相手は弟だった。その罪悪感たるや半端なく、俺は四季の顔が見られなくなった。俺はゲイなのか? ロリコンなのか? いや四季は男だからショタコンか……バース性がαである俺にとって性別は特に関係ない。男であろうと女であろうとΩでありさえすれば性的対象になるのだが、四季は女でもなくΩですらなく、自分はおかしいのだと悶々と悩み続けた。
もし自分が小児性愛的な人間なのだとしたらこれは一過性の想いだ、四季の成長と共にこの気持ちは消えてなくなるはず、と俺は自分を騙し続けた。けれど、その俺の気持ちはよその子供に向く事はなく、そして四季から離れる事もなかった。
四季が中学に上がる歳、俺は大学に進学した。すらりと伸びた手足、大人とも子供とも言えないアンバランスな年頃の四季の色気に俺は見悶えた。このままではいつか四季を襲ってしまうのではないかと怖くなった俺は家を出る事も検討したのだが、そんな育ち盛りの四季の成長を脳に刻まずにはいられなくて俺は家を出る事が出来なかった。
そのままずるずると社会人になっても実家に暮らし続け、このままでは駄目だと思った俺は四季が20歳になったら、この想いを告げて四季の前から姿を消すつもりでいた。
20歳になるまであと2年、それまで自分は四季にとって良い兄でいようとしていたのだ。
けれど転機は訪れる、四季が家族に向けて「彼女が出来た」と照れくさそうに告げた瞬間俺の血の気は引いた。
いつまでも子供ではないと分かっていた、いずれ四季も独り立ちする時が来るのだと、頭の中では理解していたはずなのに、急に現実を突きつけられた俺は「お前はまだ子供だろ!」と思わず口走り、不機嫌な表情を見せられ初めて失言だったと気が付いた。
普通の兄弟ならば、そこは普通に「おめでとう」と囃し立てる、もしくは「そうか」と受け入れるべき所だ、実際双子の弟達は「めでたい、めでたい」と四季の事を囃し立て笑っていた。
俺のこの感情がおかしいのだ、『女に四季を奪われた!』俺の頭の中にはそんな黒い感情しかなくて、改めて自分の気持ちの業の深さを知った。
そして同時に俺はもうひとつの事実に気付く、樹が何も言わない。我が家で一番四季と仲が良いのは末弟の樹だ。一番年が近い事もあり、部屋も同じ、そんな樹が何も言わずに口をへの字に歪めていた。
「もしかして樹は四季が好きなのか?」
2人きりの時に何とはなしにそう問うたら「一兄だってそうだろう!」と返された。
「僕、今まで一番のライバルは一兄だってずっと思ってたのに、悔しい……」なんて、ずばりと切り込まれて戸惑った。
「知っていたのか?」
「分からない訳ないだろう? 一兄のフェロモンは分かりやすくいつも四季兄を向いてる。四季兄だけは絶対に気付かないだろうけどね。でも四季兄が彼女を作ったって事は四季兄は抱く側だって事だ、そりゃそうだよね四季兄は男だし。だったらまだ僕にだってチャンスは残ってる。僕は女になんて負けないもん!」
末弟の樹はその辺の女より断然可愛い、本人にもその自覚があって自分が可愛い言動をしていれば周りがちやほやしてくれる事を自覚している聡い子だ。
兄弟の中でも四季の一番近くに居て、そして四季に甘える事を許されている存在……
「四季の意志は尊重すべきだ」
「え?」
「四季にだって自分で選択する権利がある」
「そんな事、僕だって分かってる!」
「樹、不可侵条約を結ぼう。四季に対して無理強いはしない、四季の意志はあくまで四季の物。四季が誰を選ぶかそれは四季の気持ちに任せる。それは俺かもしれないし、お前かもしれない、もしかしたら彼女かもしれない、だけど四季の決めた事に従う事」
「えぇ……」
不服そうな樹に無理やり俺の意見を飲ませた。これは牽制だ、まさかこんな近くにライバルがいるとは思わなかった。あと2年で自分は四季の前から消えるつもりでいたのに、急に怖くなった、俺は誰かの隣で笑う四季など見たくない。
自分の心の中にはこれほどまでに重い感情があるのだと、俺はその時初めて自覚した。
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