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第27話(side一縷)

それにしても樹を牽制したのはいいのだが、現在四季の隣には俺の知らない女がいるという現実に俺は悶々とする。 四季の選択した事には従う、それは自分自身にも言い聞かせた言葉だ。無理やり奪っても意味はない、分かっていても心は苦しい。ついでに何故か最近四季は俺との間に距離を取ってくる。俺の気持ちを知られた今となっては樹に遠慮する必要もなく俺は目一杯樹を利用する。「一兄って、ちょっとズルいよね」なんて樹に言われてしまったが、なりふり構ってなどいられなかった。 そしてそんな折事件は起こる。学校で発情期(ヒート)を起こした樹がαに襲われ、そんな樹を助けようとした四季が怪我をした。とはいえ怪我自体は青痣程度で命に別状はなかったのだが俺の怒りは収まらない。 意識を失い病室で眠り続ける四季の白い顔を見た途端かっと頭に血が上った。大事はないと分かっていても、ひとつ間違えば大怪我を負っていたかもしれないというその事実と、見知らぬαに噛まれたその肩口の噛み痕に怒りが治まらない。 四季に触れていいのは俺だけだ、傷を付けるなど言語道断! 怒りのままに会社に有給申請、電話の向こう側では何か喚くような声が聞こえたが知った事ではない。 襲った相手をどうしてくれようかと鬱々と考え込んでいたら、目を覚ました四季に大丈夫だと言われたのだが、お前がそれを良しとしても俺は相手が許せない。 四季が自分を卑下する事は、お前を心配している俺をも否定するのと同じなのだと、つい声を大にして言い募ったら少し引かれた。けれどそれは間違いようもなく俺の本心なのだから仕方がない。 「勘違いだったらごめんだけど、兄ちゃんもしかして……」 ぎゃあぎゃあといつも喧しい双子の弟達の横やりから何かを察した様子の四季が、考えた事もなかったというような表情で俺を見上げる。誤魔化されておけば良かったものを、何故そんなに気にするのか? お前は知らなくてもいい事だ、俺のこんなどす黒い執着なんて知らなくていい、けれど一縷の望みがあるのならば、それを口に出す事には意味がある。 両親が番う事を家族に反対されて一縷の望みを賭けて俺を生んだように、俺にとってはその選択の時が今なのか? 勢いのままに「好きだ、愛している」と告げたら、驚いた表情はされたものの、意外とすんなりと受け入れられた。勢い余って押し倒したら、さすがにストップをかけられたのだが、予想外に可愛く「抱っこして」とおねだりされて頬が緩む。と同時に自制心を試されているのか……と困惑もしたのだが、そんな可愛いおねだりに否を言える訳もなく俺は四季を抱き締めた。

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