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第28話(side一縷)
末弟の樹には「ぬけがけだ」と散々怒られはしたのだが、こうして両想いになった俺達の生活は劇的に変わる……などと言う事はなく、日々は淡々と過ぎて行った。変わった事と言えば少し俺を避けるように生活していた四季が俺の膝の中に入ってくる事を厭わなくなった事くらいで、生活に大きな変化は見られない。
「兄ちゃんまだ四季とやってないの?」
「あの状態で手を出さないとか、兄ちゃんの忍耐力凄いよね」
双葉と三葉はそんな事を言って俺をけしかけるのだが、俺には心に決めている事がある。それは四季の嫌がる事は決してしないという鉄の掟。四季が手順を踏めと言うのならそのようにしてやりたいと思っているし、今の状態でも十分満足している俺にとっては別段不満などなかったのだ。
けれどそれが一か月、二か月と続けばさすがに俺も不安になる。四季の態度は変わらない、傍にいる事は格段に増えたが、それだけで何も言ってくれない四季に俺は手出しが出来ず、ついにぽろりと本音が漏れた。
「四季、俺はいつまでこの状態でお預けを喰らっていればいいんだろうか?」
それに対する四季の答えは「それなんだけどさ、こんなにずっと一緒にいるのに兄ちゃん本当に手を出してこないんだもん、びっくりだよね。ちょっと忍耐力強すぎじゃない?」だったので、流石の俺も言葉に詰まる。いやいや、手順を踏めと言ったのはお前の方だろう?
「俺さぁ、手順を踏んで欲しいとは言ったけど、嫌だって言った覚えはないんだけど?」
確かにそれは四季の言う通りだ、けれどだとしたらここまで手出しをしなかった俺の我慢の意味……
「俺は四季の許可を待っていたんだが……」
「兄ちゃんは俺が『して』って言うまで本気で何もしないつもりだったの?」
思わず無言で見つめ合う。言われてみれば確かにそうか、俺自身も四季にしてもいいかと問うたことすらない事に改めて気づく。どうやらお互い思う所があって一歩を踏み出せずにいた事は分ったのだが、どうにも四季の考えている事は読みづらい。
許可を求めればはぐらかし、かと言って嫌がるそぶりもなく俺を誘惑すらしてみせる。どう返すのが正しいのかも分からなくて戸惑っていたら、泣かれてしまって更に慌てた。
「四季、お前はなんで泣く? 何がそんなに気に入らない? 言ってくれなければ分からない、俺はお前を泣かせたい訳じゃない」
「だったら兄ちゃんも言ってよ! 俺が言わせたんじゃ意味がない、俺がやらせたんじゃ意味がない、俺はそんなの望んでない! 俺はΩじゃないから、兄ちゃんが噛んだ痕だってもうとっくに消えちゃったよ!」
俺が嫉妬のままに刻み付けた所有印、それが消えたと泣く四季は最高に可愛らしくて胸が震えた。
「もしかして、不安にさせていたか? 事を急いては駄目だと思っていたんだが、こんな風に泣かせては意味がなかったな……」
四季が潤んだ瞳で腕を伸ばす。
「ぎゅってして!」
「ああ、そんな事ならいくらでも。もう、それだけでは止まれないが……」
許可など待つ必要はなかったのだな、とようやく気付いた瞬間だった。
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