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第5話
「龍也さん。あのさぁ」
「なんだ?」
「僕、そろそろバイトに行きたいんだけど。」
「ダメ。」
「何でよ。」
「危ないから。」
「危なくないでしょ。」
僕を膝に乗せながらパソコンとにらめっこしていた龍也さんが、僕を向かい合うように座らせて言った。
「あのな、伶。裏の世界の情報屋は腕が立つ奴らばかりだ。現に俺がお前と一緒にいることをつかみ、嗅ぎまわっている奴もいる。分かるだろう?危ないんだ。」
ムッとする僕をなだめるように龍也さんが言う。でも僕だって何かしたいんだもん。
「でも、僕も龍也さんの役に立ちたいんだよ。龍也さんがお金に困ってないのは知ってるけど、僕にできることはこれぐらいしかないから、僕も働きたい。」
絶対に折れそうもない僕のことを見て、龍也さんはため息を吐いた。
「じゃあ、バイトに行くときには絶対に二人は護衛をつける。いいか?
それが嫌だというなら、バイトに行くことは認めない。」
「二人も?つけるなら一人でいいんじゃない?皆忙しいだろうし。」
「二人だ。これは絶対に譲らない。」
頑なな龍也さんに今度は僕が折れる番だった。
「・・分かったよ。」
バイトに行く日になり、朝起きて準備をしていると家のインターホンが鳴った。
ドアを開けるとそこにいたのは、和泉さん、椎名さんと初めて見る二人だった。
「おはようございます。伶さん。入らせていただいてもよろしいですか?」
和泉さんにそう聞かれて後ろを見ると、龍也さんも玄関に歩いてきていた。
「ああ。入れ。」
龍也さんが入る許可を出すと、それぞれ、お邪魔しますと言いながら入ってきた。
まぁ初めて見る二人は緊張しているのか、声が裏返ってたけど。
「伶さんがバイトに行かれるということで、護衛につくものを紹介させていただきます。」
和泉さんがそういうと、さっきから緊張しっぱなしの二人がピシッと背筋を伸ばして自己紹介をした
「初めまして!護衛を担当させていただきます、池澤大和(いけざわやまと)です。
よろしくお願いします!」
「初めまして!同じく護衛を担当させていただきます、間宮俊(まみやしゅん)です。
よろしくお願いします!」
「如月伶です。よろしくお願いします!」
「池澤、間宮、変わったことがあればすぐに私か和泉に連絡しろ。いいな?」
「「はい!」」
椎名さんが言うと二人がぴったり揃えて返事をした。あまりにも大きい声で返事をするもんだからこっちがびっくりしてしまう。
「それでは会長も伶さんも車が用意できていますので下へお願いします。」
和泉さんに言われて龍也さんと下に降り、別々の車に乗り込む。車の中から龍也さんに手を振ると、振り返してくれた。それがなぜかすごくうれしくて一人でニヤニヤしてしまった。
バイト先に着くと、間宮さん達はバイトが終わるまでここにいるという。申し訳ないと思って店内で待てばいいと言っても、車で待つの一点張りなので仕方なく車を降りた。
「それじゃあ行ってきますね。」
「はい!行ってらっしゃい。」
間宮さん達は僕ともフレンドリーに話してくれるからすぐに仲良くなれた。
久しぶりに行ったバイトは特に問題もなく終わらせることができた。店長から上がっていいという声がかかり、お疲れ様でしたと声をかけ、裏の従業員専用の通用口から店を後にし、間宮さん達が待つ車に急いだ。
その時だった。後ろからハンカチのような布で口を塞がれ、やばいと思った時には強烈な眠気が襲ってきて意識が途切れた。
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