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第9話(愁side)

会長の部屋を後にした俺は天羽会の組員の元に向かっていた。組員達の元に着くと、俺を見つけて組員達が寄ってくる。 「お前たち。よく聞け。緊急事態だ。会長の恋人、伶さんが何者かに攫われた。これから伶さんの特徴を話す。全力で捜索に当たってくれ。」 「「はい!」」 「幹部。」 組員の一人から声が上がる。 「なんだ?」 「会長の恋人ということは、いずれ俺たちにも紹介されるのでしょうか?」 気になるよな。そりゃそうだ。 「紹介のタイミングは会長がお決めになるが、 いずれは紹介があると思うぞ。」 そう言うと、ぉぉーと声が上がる。 「じゃあ頼んだぞ。」 「「はい!」」 後ろで組員達が仕事を始める気配を感じながら、 俺は凛月が待つ幹部室に向かった。 幹部室の扉を開けると、凛月はパソコンとにらめっこしていた。 「何か情報出たか?」 「今、伶さんのバイト先付近の監視カメラをハッキングして見れないかどうかやってるとこ。」 「そうか。じゃあ俺は店の客を調べる。」 「分かった。」 会話が終わるとそれぞれがパソコンに向き合い、幹部室にはパソコンのキーを叩く音しか聞こえなくなった。 しばらくして、幹部室の扉がノックされた。 「入れ。」 中から声をかけると遠慮がちに扉が開き、顔を出したのは池澤と間宮だった。 「帰ったか。どうした。」 「幹部。会長から聞きました。お二人が俺たちの変わりに謝って下さったって。」 「ああ。謝っておいた。今回の件はお前らの責任はない。私たちの指示が甘かった。」 「いえ、俺たちがもっと考えて動いていれば。」 「そう思うなら、今しなければいけないことをしろ。」 そう言うと、二人はハッとした顔をした。 「お前らが今やらなければいけないことは伶さんの救出に最善を尽くすことだと思うが?何か異論はあるか?」 「「いえ、ありがとうございます!」」 そうして二人は幹部室を出ていった。 二人が出ていってから、俺たちはまたパソコンと向き合った。 どれぐらいそうしていただろうか。不意に凛月が声を上げた。 「来た!!」 その声を聞いて凛月のパソコンを覗き込む。 「バックヤードの監視カメラだから、ここからなら犯人の顔も、車のナンバーもバッチリ写ってるはず。」 そう言いながら、凛月が映像を早送りする。 「口塞がれてるな。睡眠薬かなにかか?」 「そうかもね。ここからなら顔もナンバーも分かるんじゃないかな。拡大してみるね」 「ああ。頼む。」 拡大すると、顔もナンバーもバッチリ写っていた。そこから伶さんの居場所を特定するまでは早かった。 凛月がナンバーを元に車の足取りを辿り、俺が、犯人の経歴を調べあげる。 伶さんの居場所が分かると、直ぐに二人で会長の部屋に向かい、報告する。 「会長。伶さんの居場所が分かりました。」 「そうか。どこにいる?」 「○✕マンションの111号室です。」 「分かった。今から行くか?」 「いえ、私達は相手の部屋などの細かいことを全くと言っていいほど知りません。なので、明日、明るくなってから偵察に行き、それからがいいかと思います。」 「・・・・・待っていて伶に何かあったらどうするんだ。」 「心配なのは承知しております。しかし、伶さんの安全のためにも待った方がよろしいかと思います。」 凛月も俺の意見に同意して言う。 「・・・・・・・・分かった。明日だ。 必ず伶を助け出すぞ。」 「「はい!」」 会長の部屋を後にすると、凛月が話しかけてくる。 「伶さん無事かな。」 「無事なことを願うしかないだろう」 「そうだね。」 「明日、絶対助け出すぞ。くれぐれも足は引っ張るなよ。」 「りょーかい。」

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