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第13話

「伶に指一本触れてみろ。・・殺すぞ。」 ドアが蹴り開けられ、そこから現れたのは、和泉さんと椎名さん、そして一番会いたかった人。龍也さんだった。 僕の状況を見た3人の雰囲気が変わる。 なんというか殺気よりも冷たく、鋭い感じ。 その雰囲気から僕は初めてヤクザの3人を見た気がした。 「ふっはははははは。」 突然、男が僕の上で狂ったように笑い始めた。龍也さんを初めとした3人が身構える。 「そろそろ来る頃だと思っていたんだ。 でも残念だね。伶君は俺のモノだよ。」 「どういうことだ。」 龍也さんが低く、唸るように言う。 「こういうことだよ。」 そう言うと、男はどこから出したのかナイフを僕の首筋に押し当てた。 その瞬間、幹部の2人が1歩前に出る。 「おっと。動くなよ。伶君が怪我しちゃうよ」 「っ伶。」 龍也さんが少し焦ったように僕の名前を呼ぶ 「痛っ」 男が強くナイフを押し当てたもんだから首が少し切れてしまった。 僕の首筋から流れる血を見て、3人が完全にキレた。 龍也さんの口が言葉を紡ぐ。 「やれ。」 その瞬間、幹部の2人が目にも止まらぬスピードで僕らとの間を詰めてきた。気がついた時には僕の首筋にあったはずのナイフは床に転がり、僕の上にいたはずの男は引きずり下ろされ、床に押さえつけられていた。 目にも止まらぬ速さに僕が驚いていると、龍也さんが男の前に歩いていき、頭を容赦なく踏みつけた。 「う、ぐぁ、」 男が痛みに呻いていると、龍也さんが話始めた。 「俺は天羽会会長、天羽龍也だ。 お前は手を出す相手を間違えた。俺を本気で怒らせたんだ。俺の伶に手を出し、ケガをさせた。」 龍也さんはそこで話を途切れさせ、しゃがんで男の髪を掴み上げ、顔を上げさせた。 「このまま生きていられると思うなよ。」 龍也さんが腹の底から冷え冷えとするような声で言った。 これが天羽会会長の天羽龍也なんだ。 龍也さんは立ち上がると、僕に向き合って言った。 「伶?大丈夫か?遅くなって悪かった。」 僕に話す時にはフワッと柔らかくなった龍也さんの雰囲気。僕が会いたくてたまらなかった龍也さんがそこにいた。 僕は思わず、龍也さんに抱きついた。 よろけることも無く、僕のことを受け止めてくれる愛しくて堪らないその体温。 「会いたかった。」 「ああ。俺もだ。」 その光景を見た男が押さえつけていた幹部2人を押しのけ、ナイフを持って龍也さんに突進してきた。 危ない!そう思った瞬間に男には幹部2人の長い脚から繰り出される蹴りが直撃していた。 「「あまり調子に乗るなよ。」」 2人がぴったり揃えて言う。 2人とも怖いんだけど、特に椎名さん。普段はヤクザっぽくなくて、いつも温かい雰囲気を出してるのに、今の椎名さんは違う。床に倒れる男をゴミを見るような目で見ている。 絶対に椎名さんを怒らせたらダメだ。 2人の蹴りで伸びてしまった男を見て、和泉さんが龍也さんに言う。 「会長。帰りますか?」 「ああ。そうだな。伶?立てるか?」 「う、うん。」 そう言って立とうとしたが、目の前にいる優しい顔をした3人を改めて見ると、安心感が胸に広がり、ガクッと膝から力が抜けてしまった。急に座り込んだ僕を心配するように3人がしゃがみこんだのを見て、僕の視界はブラックアウトしていった。

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