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第20話
「これがうまいぞ、伶君。」
「いや、こっちのほうがうまいぞ伶。」
僕の目の前にずいっと料理が差し出される。どっちもおいしそうなんだけど、それよりも僕を挟んでバチバチと火花を散らしている龍也さんと文也さんのほうが気がかりで食事どころじゃない。助けを求めて辺りを見回すと、和泉さんと椎名さん、そして望さんが三人並んで食事をしているのが見えた。
「ぼ、僕!ちょっと失礼します!」
差し出された食べ物を押しのけて立ち上がる。
龍也さんも文也さんもびっくりしてるのを見てちょっと申し訳ない気持ちが芽生えたが、それは振り払って三人のところに行く。
和泉さんが僕が歩いてきたのに一番に気づいてスッと僕が座る隙間を開けてくれた。
「お邪魔しまーす。ご一緒してもいいですか?」
僕のために開けられた隙間に腰を下ろしながら、念のため聞く。
「もちろんですよ。いくら伶さんでもあのお二人に挟まれていたら疲れるでしょう。」
望さんが苦笑交じりに言う。
「二人とも良くしてくれてるんですけどね。」
僕も苦笑しながら言うと、椎名さんも和泉さんもああっと言う顔になる。
「伶さん、これは召し上がりましたか?とてもおいしいですよ。」
すかさず椎名さんが話題を振ってくれる。
「あ、僕まだそれは食べてないです!」
「それでは差し上げますね。」
「でもいいんですか?椎名さんの分。」
「私は十分に頂きましたので。お気になさらず。」
椎名さんはすごく話し上手ですぐに四人で会話が弾むようになった。
「伶さんは何か好きな食べ物はあるんですか?」
「んー基本的においしく食べれるんですけど、一番好きなのはオムライスですかね。よく子供っぽいって言われるんですけど。」
「オムライスですか。それが子供っぽいのであればうちのもう一人の幹部も子供っぽいということにn…っった。」
椎名さんが言い終わらないうちに隣に座っていた和泉さんから容赦ない拳骨が炸裂した。
「なにすんのさ!?」
「お前が下らんこと言うからだ。」
「まあまあケンカしないで。伶さんもいらっしゃるいらっしゃるんですから。」
言い合う二人の間に望さんが仲裁に入る。
「ふふっ和泉さんオムライスが好きなんですか?お揃いですね。」
「別に好きというわけでは…」
「中身はケチャップライスですか?バターライス?何も味をつけない人もいるみたいですけど」
「…ケチャップが好きです。」
「ほんとですか?僕もです!やっぱりケチャップがおいしいですよね~」
わかるわかると頷いていると、望さんが話しかけてきた。
「甘いものはお好きですか?」
「はい!甘いものはほんとに大好きで、出来ることなら毎日ケーキ食べたいです」
バイトで生活を成り立たせていたころも年に一回、誕生日だけはちょっと奮発してワンホールのケーキを買ってきていた。
「そうですか。なら、嫌いなものを押し付けるようで申し訳ないのですが、よろしければ私の分のケーキもお召し上がりください。」
見るともうデザートのケーキが運ばれてきていた。
「もちろん!甘いものあんまり好きじゃないんですか?」
「フルーツなら好んで食べるのですが、どうも生クリームがダメでして。」
「そうなんですね。」
「デザートを食べ終わりましたら組長たちのもとに戻ってあげていただけませんか?」
望さんに言われてふと見ると、龍也さんと文也さんがこっちを凝視していた。
「そうですね。そろそろ戻らないと拗ねちゃいますね。」
ケーキをパパっと食べ、龍也さんたちのもとに戻る。
「おいしかったね。龍也さん。」
「いつでもこれ以上のものを食べさせてやるぞ。」
「そうじゃなくて、おいしかったねって言ってるの。おいしくなかったの?」
「…うまかった。」
「文也さんありがとうございました。すごくおいしかったです。」
「そうか。またいつでも来るといい。歓迎するぞ。」
文也さんと望さんとお別れして、龍也さんと帰りの車に乗る。
「今日は遅くなったから組員への顔見せは明日でもいいか?」
「そのほうがいいね。こんな遅くに呼ぶのかわいそうだよ。」
「俺が呼べばみな来るがな。」
「でもしないでしょう?」
「ああしない。日中あいつらにはいろいろやってもらっているからな。夜のうちは休ませてやりたい」
そういうところがほんとに好きなんだよな。ぶっきらぼうで分かりにくいけど人のことを良く考えてる。
「ところで、あいつらとなに話してたんだ?」
「あいつら?ああ。色々だよー」
「だから色々ってなんだよ。」
「好きな食べ物とか、嫌いな食べ物とか。」
「食べ物の話しかしてないじゃないか」
「…ほんとだ!」
「くくっほんとお前はな。何が好きだって言ってた?」
「あ!そうだ!和泉さんがねオムライス好きなんだって!僕今度作ってあげようかな」
「ダメ。」
「何でよ。」
「俺まだ伶の手料理食べてない」
ブスッとしながら言う龍也さんに笑いが込み上げてくる。
「…ふっじゃあ何食べたい?明日の夜ご飯に作るよ」
「コロッケが食べたい。」
「じゃあ、ジャガイモのやつとカボチャのやつ作ろうか。」
「ほんとか?楽しみだな。」
「っっっその顔ダメ。」
「は?」
待ってカッコよすぎる。なに?ふふって。子供が笑うみたいに無邪気に笑った。
顔に熱が一気に集中するのが分かる。
「なんだ。俺がかっこよすぎたのか?」
ニヤニヤしながら聞いてこないでください。
「ん?伶。どうなんだ?」
「~~~~~っかっこよすぎるんです!ばか!!」
「ずいぶんないいようだな」
「ニヤニヤしないで!!」
隣でニヤニヤし続ける龍也さんを無視して僕は明日のコロッケのレシピを検索し始めた。
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