28 / 67

第29話

「ひろーーい!」 こちらですと案内されて入った部屋は間違いなくこの旅館の中でも一番いい部屋なのだろう。 「ごゆっくりどうぞ」 案内してくれた人が静かに襖を閉めて出ていく。 僕たちの部屋はとってもきれいな和室の部屋だった。 部屋の中をうろうろ歩き回っていろんな部屋を見て回った。一通り見て龍也さんのところに戻る。 「満足したか?」 「うん。僕、こんなに大きい部屋泊まったことないよ」 最後に旅行という旅行をしたのはまだ両親が生きていたころ、僕が小学生のころだった。中学校に入ると部活や勉強でとてもじゃないが旅行どころじゃなかった。高校生になって少し落ち着いたらバイトをして両親を旅行に連れて行ってあげようと思っていた矢先の事故だった。 そんなことを考えたら少し寂しくなってしまった僕に気づいてか龍也さんが声をかけてきた。 「荷物の整理も終わったし、何処かに散歩でも行くか?」 「散歩?行く!」 気を取り直して龍也さんと外に出る。 隣を歩いていた龍也さんがおもむろに僕の手を握って、手をつないだ状態で歩き始めた。 「ちょ、龍也さん?組員さん達いるから」 「組員しかいないんだからいいだろう」 「そういう問題じゃないよ!」 「いやか?」 「い、嫌じゃないけど」 「ならいいじゃないか」 なんだかんだで丸め込まれて龍也さんと手をつないだまま歩く。 ロビーに出ると、案の定沢山の組員さんたちが和気あいあいと話したり、売店に立ち寄ったりしていた。龍也さんがロビーに出てきているのに気づくとみんな慌てて頭を下げる。 「少し話すか」 そう呟いて龍也さんは近くにいた組員さんのもとに歩く。もちろん手をつないだまま。 「長いこと車に乗っていたが疲れてはいないか?」 「か、会長!?は、はい!大丈夫だす!」 話しかけられた組員さんは焦りまくって変なしゃべり方になってる。 「ははっそうか」 龍也さんが声をあげて笑うとロビーにいた組員さんが珍しそうに龍也さんを見る。 僕は龍也さんが話している間に別の組員さんに話しかけに行く。 「疲れてないですか?」 「れ、れ、伶さん、はい!昔から体力だけは自慢なもんで」 「そうなんですね。何かスポーツとかはされるんですか?」 「はい、体を動かすのは好きなんでいろんなスポーツします」 「何が一番得意ですか?」 「そうですね、バスケが得意ですね」 「そうなんですか?あ、確か椎名さんがバスケが上手なんですよね、一緒にやったりしないんですか?」 「椎名幹部とですか!?そんな恐れ多いこと出来ねえです」 「えー何でですかー?」 ふと見ると、タイミングよく椎名さんと和泉さんがロビーに出てきていた。 「あ、いいところに。椎名さーん!和泉さーん!」 二人に聞こえるように大きめの声で呼ぶ。 「え!?あ、伶さん!?」 組員さんがめちゃくちゃ焦っている所に幹部の二人がやってきた。 「どうかされましたか?伶さん」 「椎名さん!バスケが得意だって言ってましたよね!」 「は、はい。バスケは得意ですね」 「この人も得意なんですって!!一緒にやらないんですか?」 「私がですか?」 「そうです!和泉さんはバスケやられるんですか?」 「私も多少は。椎名には負けますが」 「そうなんですか。ならみんなで今度バスケ大会しましょう!」 「それは楽しそうですね」 「いいですか?」 「もちろん。今度セッティングできるか見てみます」 「お前、佐藤だったか?」 椎名さんが恐縮してしまってちっちゃくなっている組員さんに声をかける。 「は、はい!佐藤っス!」 「やるとなったら手加減はしないぞ」 ニヤッと笑いながら宣戦布告まがいのことをした椎名さんに組員さんはさらに小さくなってしまう。 「それじゃあ、楽しんでくださいね!また夕食のときに会いましょう」 「はい!ありがとうございます!」 いろんな組員さんと話せて楽しかったな。龍也さんどこだろう。 龍也さんを探してキョロキョロしているとロビーの隅のほうでまだ組員さんと話していた。 「こんにちはー」 龍也さんが話している人たちの中に入っていくと組員さんも挨拶を返してくれる。 「いろいろ話せたか?伶。」 「うん!みんないい人たちだね」 「だろう?そろそろ夕食の時間か。時間守らないと和泉が小姑みたいにうるさいからな。そろそろ行くか」 「分かったー」 「お前らも時間見て大広間行けよ。また後でな」 「また夕食のときに」 組員さん達といったん別れて、大広間に向かう。 「どんな話したんだ?」 「いろいろだよー。バスケが得意な人もいたし、お話がすごく面白い人もいてすごく楽しかったよ」 「それはよかったな。まだまだ時間はある、伶も楽しめよ」 「うん!ありがと、龍也さん」

ともだちにシェアしよう!