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第31話
「...い....れい....伶」
体をゆすられている感覚と僕の名前を呼ぶ声でゆっくり意識が浮上する。目を開けると、苦笑いを浮かべた龍也さんが僕の体をゆすっていた。
「んー?なにー?」
寝ぼけながら言葉を発したため、舌っ足らずになってしまった。
「伶、まだ寝るなと言っただろう。温泉に来て風呂に入らないのか?」
「お風呂ー?はいるー」
「なら早く起きろ」
「分かったー」
龍也さんに言われてゆっくりと体を起こす。
「俺は部屋についている露天風呂に入ろうと思っているが、伶はどうする?もし大浴場のほうに行きたいなら、時間取って貸し切りにするが」
「貸し切りにしなくても僕は気にしないよ?」
「伶は俺以外の男に裸を見せるつもりだということでいいのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど..」
「それなら貸し切りにする」
「僕、お部屋のお風呂入る」
「そうか?なら先に入ってこい」
「?わかった」
一緒に入るとか言ってくるかと思ったのにな。変なの。
脱衣所で服を脱いで、お風呂へと続く扉を開ける。体や頭を洗って、湯船に入った。
「はぁ~。気持ちいー」
まさか天羽会のみんなで旅行に来るなんて思わなかった。多分龍也さんが色々動いてくれたんだろうな。ありがとうって言わなきゃな。組員さんたちもみんないい人たちだし、もっと仲良くなれるといいな。
湯船から上がり、浴衣を着る。着付けがよくわからなかったが、何となくで着た。
髪の毛を拭きながら部屋に戻ると、龍也さんはだれかと電話中だった。お風呂から上がった僕の姿を見つけると片手をあげて待てと合図してくる。
『ああ。引き続きよろしく頼む。』
電話を切った龍也さんが僕に向き直る。
「上がったか。浴衣、適当に着ただろう」
「え?何で分かるの?」
「向きが逆だ。浴衣は左側が前にくるように着るんだ。やってやるからこっちに来い」
龍也さんに浴衣を着せてもらうと、龍也さんも「風呂に入ってくる」と言ってお風呂場に消えていった。携帯をいじりながら龍也さんを待っていると、案外すぐに出てきた。
「早くない?ゆっくり入った?」
「俺は風呂に入っているよりも伶と一緒にいたほうが癒されるからいいんだ」
「なにそれー」
携帯から顔をあげて龍也さんを見ると龍也さんの髪が濡れていた。お風呂上がりだから当たり前だけど。
「髪、乾かしてあげる。ここ座って」
「伶がやってくれるのか?そりゃ嬉しいな」
僕はドライヤーを持ってきてスイッチを入れて、龍也さんの髪に風を当てる。
いつもはしっかりセットされている龍也さんの髪は思っていたよりもずっと柔らかくて、触り心地がよかった。乾かし終わって見ると、ノーセットの龍也さんがいつもより色っぽく感じた。
「はい、お終い」
「ありがとうな。人に乾かしてもらったのは初めてだったが、悪くない」
「いつでもやってあげるよ」
「....伶は、俺と一緒にいてくれるのか?」
「?どういう意味?」
急にさみしそうに目を細めた龍也さんに聞き返す。
「伶は俺といて幸せか?」
「急にどうしたの?」
「いつか伶も俺の元からいなくなってしまうかもしれない。俺は...それが怖くてたまらない」
「僕は龍也さんと一緒にいるよ?」
「今は、だろ?」
龍也さんが苦しそうに顔をしかめる。
「今はじゃない!これからもずーーっと僕は龍也さんと一緒にいる!!」
「伶?」
うつむいている龍也さんの顔を挟んで目線を合わせる。
「龍也さん、僕はね置いて行かれる人の悲しみを知ってる。もう一生味わいたくない悲しみだったよ。龍也さんに何があってそう思ったのかは僕にはまだわからない。だけどね、僕は絶対に龍也さんを一人で残して行ったりしない。これだけは約束する。だから、だからそんな寂しいこと言わないでよ。龍也さん」
「伶...」
「またいつか龍也さんがそう思っちゃう時があったら、今みたいに僕に全部ぶつけて欲しい。一人で抱え込まないで」
最後は懇願に近かった僕の言葉は龍也さんに届いただろうか。挟んでいた龍也さんのほっぺを離して、龍也さんに抱き着くと龍也さんも痛いぐらいに抱きしめ返してくる。
「ありがとう。伶」
「大好きだよ、龍也さん」
僕たちは二人で抱き合ったまま眠った。
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