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第32話(龍也side)

伶を見ると布団の上でうつぶせになって寝てしまっていた。うつ伏せだと辛いだろうと思ってとりあえず伶を仰向けに反す。顔にかかっていた伶の髪をよけると伶のきれいな顔がよく見えた。伶の寝顔を見ていたらふと昔の記憶がよみがえってきた。ずっと思い出さないようにしていた俺の過去。 「ねえ、君が龍也くん?」 「は?」 俺が高校生の頃、人とつるむつもりもなく、いつも一人でいた俺に突然話しかけてきたやつがいた。 「わーこわーい。そんなんじゃ友達出来ないぞっ」 「別に作るつもりはない」 初対面なのに馴れ馴れしく接してくるそいつがうっとうしくてたまらなかった。 「俺、冷泉翔(れいせんしょう)。よろしくね」 謎に自己紹介をしてきたが無視して屋上へ続く階段を上る。後ろから何やら話しながらついてきたがそれも無視する。 「ねえねえ、なんでいつも一人でいるの?」 「好きな食べ物は何?俺はねー...何でも好きだなー。あ、でもセロリは嫌いなんだー」 別に話しかけているわけじゃないのに隣でしゃべり倒すそいつにイライラしてきた。 「お前、うるせえんだけど」 胸倉をつかみ上げて言う。これで黙るだろうと思っていたがそいつは違った。そいつは胸倉をつかまれたままニッと笑った。 「やっと反応してくれた」 「あ?」 「ずーっと話してるのに全然反応してくれないんだもの、俺のこと見えてないのかと思っちゃった」 「はぁ。なんなんだお前は」 イライラを通り越して呆れてしまった俺をみてそいつはまた笑った。 それが翔との初対面。それからも翔は俺によってきていつの間にか打ち解けていた。 「龍也ー、今日こそはお前をぶっとばしてやる」 「は?お前誰だよ」 わけの分からないやつらに喧嘩を売られ、殴りかかってきたから殴り返す。瞬殺だった。一発鳩尾に入れればすぐに伸びる。地面に倒れたやつらを見下ろしていると後ろからガサッと物音がした。 「あらーこりゃまた派手にやったね、龍也」 「翔、こいつら誰だかわかるか?」 「え、覚えてないの?この前も同じ人に喧嘩売られてボコボコにしてたじゃん」 「あー、覚えてねえ」 「ボケてんじゃないの」 「ボケてねえ」 そんな軽口をたたきながら帰っていた日々はあっという間に終わってしまった。 プルルルルr.. 携帯の画面を見ると翔からの電話だった。 「翔?なんだ?」 「龍也かー?」 電話口から聞こえてきた明らかに翔のではない声に顔をしかめる。 「誰だ?翔はどこにいる」 「大事なお友達なら俺のすぐ後ろにいるよ」 「何がしたいんだ」 「今からいう場所に今すぐ来い。来ないとお友達がどうなるかわからないぞ」 「...どこだ」 言われた場所にすぐに向かう。指定された場所はしばらく使われていない廃工場だった。 ガラっと開けられそうなシャッターを開けて中に入る。 「おー来たか」 ニヤニヤしている主格であろう男の後ろで翔が縛られて転がされていた。 「俺のダチにそんなことしてただで済むと思ってんのか」 「ただで済まねえのはお前のほうだよ」 自分らがヤバくなったら翔にナイフでも突きつけて俺をサンドバッグにでもするつもりだったんだろうが、そんなことさせる間もなく全員倒し、翔のロープを解く。 「お前、ほんとに気をつけろよ」 「ホントにごめん」 「なんか奢れよ」 「なんでも奢らせていただきます!」 軽口をたたいていた時、俺の背後で物音がした。 「龍也!!!!!!」 翔が俺の名前を叫び、俺をかばうように俺の前に立つ。 次の瞬間、翔は苦し気なうめき声と共に膝から床に崩れ落ちた。 「翔!」 急いで翔に駆け寄り、翔を抱き起こす。翔の腹部にナイフが刺さっていた。 「翔、しっかりしてくれ!おい!翔!」 腕の中でぐったりしている翔に必死に呼びかけるが、返事がない。背後に立っている刺したやつを睨みつける。翔をゆっくり床におろし、そいつに向き直る。 気づいた時にはそいつの上に馬乗りになって殴り倒していた。そいつの顔は腫れあがり、反応もない。 翔のもとに行ってもう一度翔を抱き起こすと、翔の口がかすかに動いた。 「なんだ?翔」 「ごめんな、........ま、た一人にしちまうな」 「何言ってんだよ、しっかりしてくれよ。翔、翔、」 「ひと、りでも、しっかり、やら、ないと、だめ、だぞ」 「俺は、一人なんかじゃ、これからもお前と一緒に、、」 「りゅ、や。たのしか、たぞ。ありがとな」 そう言って、翔は腕の中で息絶えた。息絶えた翔を抱きしめると、涙が次から次へと流れ出て止まらなかった。翔の顔はまるで眠っているかのように安らかだった。 翔を抱きしめて泣いていると俺の背後のシャッターが開く音がした。 「こりゃまた派手にやったな」 いつの日か聞いたことがある言葉が聞こえて振り向くと、そこには見たこともない男が立っていた。 「俺は、天竜組組長、七瀬文也という。俺と共に来い、少年よ。俺についてくればお前の友達の分までお前を生かしてやる」 初対面だったが、妙に説得力のあるその言葉に、俺は吸い込まれるように手を取っていた。

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