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第35話

パチパチと散る火花を見つめながら隣にいる大好きな人をチラッと盗み見る。 火花に照らされたそのきれいな顔は口元にわずかな笑みをうかべていて、とてもきれいだった。 「ふっ、そんなに見つめられたら穴が開くぞ」 全然こっちを見ているようには見えなかったのに龍也さんが僕に言う。 「え?」 「伶のもう落ちてるぞ」 いつの間にか僕の線香花火は終わっていたようだった。 「もう一本やるか?眠くなったなら部屋に戻るが」 「もう一本やろ~」 「そうか?それならこれ」 龍也さんが僕に線香花火を差し出す。 「ありがと」 差し出されたそれを受け取って火をつける。それぞれに火をつけると二人とも並んで座った。 「...龍也さん」 「...伶」 ピッタリ重なった僕たちの声に二人で顔を見合わせる。 「どうしたの?龍也さん?」 お先にどうぞと僕が龍也さんに聞く。 「俺がおかしいと思うか?」 「え?」 いきなり突拍子もないことを言い出す龍也さんに素っ頓狂な声が出る。 「龍也さんがおかしいってどういうこと?」 「最近、いつもと違うだろ?」 「ああ。そういうことね。うーん、どうしたのかなとは思うけどおかしいとは思わないよ」 「気になるか?」 「そうだね、ちょっとは気になるかな。でも無理矢理聞き出そうなんて思わないよ。龍也さんが話そうって思ってくれた時に話してくれればそれでいい」 「そうか...」 ポトっと落ちた線香花火の火を見つめながら龍也さんが口を開いた。 「この旅行から帰ったら、会ってほしいやつがいる。すごくいいやつなんだ。そいつの前で全て話そう」 「そっか、分かったよ。そろそろ中に戻ろうか」 「そうだな」 中に入ってロビーを二人で歩いていると、向かいから何やら話しながら幹部の二人が歩いてきた。 「会長、伶さん、こんばんは」 「こんばんはー。これからどこか行かれるんですか?」 「ええ、これから少しビリヤードをしながらお酒でも飲もうかと思いまして」 椎名さんが僕の質問に答えてくれた。 「もしよろしければ一緒にどうですか?」 「いいんですか?あ、でも僕お酒は...」 「ソフトドリンクもありますよ」 「それなら行けます!」 どうする?というように龍也さんを見る。 「ビリヤードか。久々だな」 「やったことあるの?」 「ああ。コツを掴めば簡単だからな教えてやる」 「ほんと?ありがと!」 「それでは参りましょうか」 ここだと言われた場所に入るとそこは大人な雰囲気の漂うバーだった。 ビリヤードの台のわきに立った大人三人はとてもなじんでいて、そのまま雑誌とかに出ててもおかしくないぐらいだった。 龍也さんに大体の打ち方とルールを教えてもらい、チーム戦で対戦することになった。 僕と龍也さんのチームと幹部の二人のチームだ。 最初はミスばかりで龍也さんに平謝りするだけだったが、だんだんにコツを掴んできて龍也さんには及ばないものの、それなりには打てるようになっていた。 大人三人がお酒を飲みながらビリヤード台を見ている姿は思わず見とれてしまうような大人の雰囲気をまとっている。 「楽しかったねー」 ビリヤードを切り上げ、ロビーで四人でお話をする。 「まさか伶があんなにうまくなるとはな」 「ええ。まさか2ボールのトリックショットを決められるとは思いませんでした」 「たまたまですよー」 適当に打ったら二つ穴に入っただけなんだよね。 「お上手でしたよ」 椎名さんも和泉さんもべた褒めしてくるからちょっと恥ずかしい。 その後もお話しして12時を少しまわったところでそれぞれ部屋に戻った。 「明日の朝は11時にここを出発する予定ですのでそれまでにロビーに降りていてください」 「分かった。」 「くれぐれも寝坊などしませんよう」 「分かったって」 和泉さんの注意に龍也さんがめんどくさそうに返事をする。 それを見てさらに注意をしようとしていた和泉さんを椎名さんが止めて僕たちは別れた。 「明日バタバタしないように使わない荷物は詰めとけよ。伶」 「はーい」 荷物を整理し終わると、龍也さんと一緒に布団に入った。

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