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第36話
ピピピピッピピピピッ...
耳元でアラームの音が鳴る。腕を伸ばしてそれを止めると渋々目を開けた。
「りゅーやさん」
「起きる」
まだ寝ぼけているような声をした龍也さんが僕の呼びかけに答える。二人でのそのそと布団から出て顔を洗う。僕が先に顔を洗い終えてふと携帯の時刻を確認した。
........?10時45分?
「....龍也さん、集合って何時だっけ?」
「11時にロビーだな」
龍也さんにも僕が言おうとしていることが伝わったらしく、龍也さんが苦笑をこぼす。
「..伶、今何時だ?」
「....10時45分」
「急ぐか」
「超特急だね」
僕らはこれまでにないぐらい早く準備をして、時間のギリギリにロビーに降りて行った。急いでるとかっこ悪いから、さもこの時間を狙って降りてきましたとでもいうような顔で。
和泉さんから今日の予定などが短く説明された後に僕と龍也さんで旅館の女将さんに挨拶に行って、車に乗り込んだ。
車に揺られているとだんだんに眠くなってきてしまって欠伸をする。
「眠いか?」
「ん、ちょっと眠くなってきちゃった」
「こっちに来い」
そう言って龍也さんが僕の体を自分のほうに倒す。
「わっ!なに?」
「着くまで寝てろ」
龍也さんの膝に頭を乗せて膝枕の体制になった。
「....かたい」
「ふっこれでいいか?お姫様」
龍也さんが軽く笑い、どこから出したのかタオルを自分の膝と僕の頭の間にひく。
「....かたい..けど、これいらない」
龍也さんと少し離れてしまった気がして、ひかれたタオルをポイっと放る。
「そうか、おやすみ」
龍也さんが僕のこめかみに軽くキスをした。
龍也さんが僕の頭を撫で始める。それが気持ちよくて僕はいつの間にか眠りに落ちていた。
体がゆすられる感覚で目が覚める。
「伶、もうそろそろ着くぞ」
「え!?僕そんなに寝てた?ごめん、足しびれてない?」
「大丈夫だ。よく寝れたか?」
「うん、夜寝られないかもしれない」
「それは困ったな」
運転手さんから着きましたと声がかかって、車が止まる。先に僕たちのマンションに到着していたらしい椎名さんがドアを開けてくれた。
マンションの中に入ると、椎名さんが僕たちに話しかけてきた。
「明日は日曜日なのでごゆっくりお休みになってください。会長、月曜日は朝8時に私か和泉がお迎えに上がります」
「ああ、わかった。ご苦労だったな」
「いえ、ほかに何もなければ私はこれで失礼させていただきますが、何かございますか」
「いや、俺は特にないな。伶は何かあるか?」
「僕も特には何もないかな」
「それでは私はこれで。おやすみなさい」
椎名さんが去っていくのを見送って、僕たちもエレベーターに乗り込む。
「旅行、楽しかったか?」
「うん!すごく楽しかったよ」
「そうか、そういってもらえると嬉しいよ」
エレベーターから降りて家に入る。
「ただいまー」
靴を脱いでそのままの勢いでリビングにあるソファーにダイブすると後ろから龍也さんも歩いてきた。
「伶、帰ってきて早々で悪いが明日少し付き合ってくれるか」
「もちろんいいよ」
多分旅行中に言っていた「会わせたい人」のところに行くんだろう。龍也さんが言うんだからすごくいい人なんだろうな。
「伶、もうベッドに入るか?」
シャワーを浴びたりし終わった後に龍也さんが聞いてくる。
「んー、入ってもいいけどまだ眠くないかも」
「これから少し酒を飲むが伶も何か飲むか?」
「僕、未成年だよ?」
「飲むならノンアルコールで何か作ってやる」
「ほんと?それなら飲む」
「分かった」
龍也さんが僕に作ってきてくれたのは何やらきれいな色をした飲み物だった。
「はい、ノンアルコールだから安心して飲め」
「ありがと!はい、じゃあカンパーイ」
龍也さんと乾杯をして一口飲む。
「っおいしいね、これ」
「そうか、よかった」
「どうやって作ったの?」
「これは簡単だぞ」
そう言って龍也さんにこのカクテルの作り方を教わったりしている間に時計は日付をまたいでいた。
「そろそろ寝るか」
「そうだね」
龍也さんの会ってほしい人ってどんな人なんだろう。そんなことを考えながらベッドに入った。
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