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第37話

車に揺られてかれこれ2,3時間だろうか。起きて朝食をとってから龍也さんの運転する車に乗り、目的の場所に向かっていた。 「龍也さん、あとどれぐらい?」 「そうだな。あと1時間ぐらいじゃないか」 「そっか、会ってほしい人ってどんな人なの?」 「俺を誰よりも理解しようとしてくれた人だな」 「いい人なんだね」 「ああ、いい奴だよ」 それからまたしばらく車を走らせ、龍也さんが車を止めた。 「ここって....」 「行くぞ」 龍也さんが歩いていくのを僕が追いかける。龍也さんが次に足を止めたのはきれいな草原の中のある墓石の前だった。 「久しぶりだな。翔」 龍也さんが墓石に向けて語り掛ける。その顔は切なさを押し殺したような微笑をうかべていた。 「翔、俺は一生涯愛し抜こうと思える人を見つけたんだ。めんどくさがるかもしれないが今日は少し付き合ってくれよ」 龍也さんの口ぶりは僕と話すときと同じ、一人の人間としての天羽龍也だった。 「伶、こっちに来てくれ」 龍也さんに呼ばれて僕も墓石の前にしゃがむ。 「この中にいるのは俺の唯一無二の親友、とでも呼べばいいんだろうか。俺が伶に会わせたかった奴だよ」 龍也さんが僕に紹介してはくれたものの、龍也さんの話し方がいつもより歯切れの悪い気がした。 龍也さんと一緒に墓石の前に座ると龍也さんが話し始める。今まで僕が知らなかった龍也さんの過去の話を。 「そして俺は天羽会を作って、伶に会った。これが俺の過去だ。翔は俺のせいで死んだといっても過言じゃない。だから俺には自然に自分が幸せになることへの抵抗感が芽生えてしまったんだ。俺は自分の前から大切なものをもう失いたくない。伶も天羽会も天竜組も俺にとって大切な宝物なんだ」 龍也さんが語った本音。僕はそれを全て受け止めることはできるんだろうか。 「龍也さん、話してくれてありがとう。今、僕が言えることはこれしかないんだけど聞いてくれる?」 「ああ」 「僕は前に話したことあったと思うけど両親が事故で急に僕の前からいなくなっちゃったの。その時はほんとに悲しくて、寂しくてどうしようもなかった。龍也さんが翔さんが亡くなったのが自分のせいだって思ってるならそれは僕以上に辛かったと思う。でも、僕は龍也さんの悲しみとか辛さを一部だけでも分かってあげることができると思う。これからは辛いときも悲しいときも僕が龍也さんの隣にいてあげる。だから、一緒に生きよう。龍也さん」 龍也さんの話を聞いて僕が話せることの全てだった。 「ふっ俺よりも先にプロポーズをしてくるとはな」 「なっ、ちがっそういう意味じゃ」 「俺もお前と共に生きていきたい。一緒に生きてくれ、伶」 朗らかな微笑と共に僕に贈られた言葉は僕が一番うれしい言葉で。 「っもちろん!」 「よしっ、帰るか」 「うん」 『幸せになれよ!』 風に乗って聞こえたような気がする声は誰のものなのか。そんな声を背中に受けて僕たちは家へ帰った。 「伶も飲むか?作ってやるぞ」 家に帰ってゆっくりしていると龍也さんが聞いてくる。 「ノンアルコールでお願いします!」 「分かってる」 しばらくして龍也さんが出来上がったものを僕に持ってきてくれた。 「かんぱい」 「かんぱーい」 それを飲むとさわやかなリンゴの香りが口に広がった。 「おいしー」 「それはよかった。それにアルコールを入れるとビッグアップルというカクテルになる。ちなみにビッグアップルのカクテル言葉は強さとやさしさだ。伶にぴったりだろう」 「そうなんだ。成人したらそれも飲んでみたいな」 「飲ませてやるさ。一番にな」 「楽しみにしてる」

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