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第39話

「少し待っててくれ」 そう言って龍也さんがお手洗いに行った。 僕と龍也さんは龍也さんの仕事が終わってから買い物に来ていた。あらかた買い終わった後に龍也さんがトイレに行きたいというので僕は近くのお店を見ていた。 このコップ使いやすそうだな。色違いもあるから龍也さんとお揃いにできる。 そんなことを考えながら雑貨のコーナーを見ていると、後ろから声をかけられた。 「あれ?伶じゃん!」 ずいぶん昔に聞いたことがある声に恐る恐る振り向く。 「一人で来てるの?親と?あ、ごめーん、死んだんだっけ伶の親」 馬鹿にするように言ってくるその人は僕のいとこ、如月樹(きさらぎいつき)。いとこと言っても家族同士が仲良くなくて殆ど会ったことはない。僕の両親の葬式でも端のほうでクスクス笑っていた。 「おばさん達死んだって聞いて伶もどっかで野垂死んだのかと思ってたけど、元気そうじゃん。どこに住んでんの?まさか野宿じゃないよね」 「今は知り合いのところに住んでるよ。僕急いでるから、じゃあね」 早く樹から離れたくて別の場所に移動しようとする。 「待ってよ、せっかく久しぶりに会ったんだから母さんたちにも会っていきなって」 「僕急いでるんだってば、」 おばさんたちは僕の両親のことも僕のことも嫌っていて両親が生きている頃も嫌がらせのようなことばかりしてきていた。 「そういわないでさ、すぐそこにいるんだから」 樹が僕の腕を引っ張って歩いていく。 「母さん、伶がいたよ」 樹が別のコーナーを見ていた中年の二人に声をかけると二人がこっちを見た。 「...お久しぶりです。おばさん、おじさん」 「あら、あんたまだこの町にいたのね。てっきり後を追って自殺でもしたのかと思っていたわ。まぁそうしてくれてもいいんだけどね。うふふっ」 「お前、どこに住んでるんだ」 おじさんのほうが僕に聞いてくる。 「知り合いの家に住まわせてもらってます」 「はっ体でも売ったのか?」 「えー伶売春してるってことー?不潔ー」 「そんなこと!してないです」 僕の頭の中は一刻も早くこの場から立ち去りたいということでいっぱいだった。早く龍也さんのところに戻りたい。 「ぼ、僕、急いでるのでこれで失礼します」 そう言って立ち去ろうとした僕の腕をおばさんが掴む。 「待ちなさいよ。私たちは伶の親戚よ。同居人を見る権利ぐらいあると思わない?」 「あー僕も伶の同居人興味あるー!」 「連れてきなさいよ」 龍也さんを見せろと僕に詰め寄るおばさんが僕の腕をつかむ力を強くする。 「痛っおばさん、」 龍也さんをおばさんたちに見せるのが嫌で来ていないと言おうとした時だった。誰かの手がおばさんの腕をつかんだ。 「俺の連れに何か用か?」 冷え冷えとするような声で言ったのは龍也さんだった。 「大丈夫か?」 おばさんの腕を離して僕に聞く。 「うん、龍也さん。僕のおばさんとおじさんといとこだよ」 「そうなのか。」 「あなたがその子の同居人の方?」 「そうだ。何かあったか?何もなければ俺たちはもう行くが」 「いえ、何でもないわ。それじゃあね、伶」 おばさんが踵を返して帰っていく。帰る直前にニヤッと笑ったのは気のせいだったのだろうか。 「伶?大丈夫か?」 「え?あ、うん。大丈夫だよ」 本当は掴まれた腕がズキズキしていたが、笑ってごまかす。そうすると龍也さんが片方の眉毛をクッと上げて僕に聞いてきた。 「ホントか?腕、見せてみろ」 「いや、ほんとに大丈夫だって」 「大丈夫なんだろう?それなら見せてもいいじゃないか」 龍也さんが僕の腕を取り、服をめくる。 「...大丈夫とは何も問題がないという意味だと記憶していたが、大丈夫なのか?この腕は」 しっかりあざが出来ていた腕を見て龍也さんが僕を見る。 「........痛い、です」 「慧のところ行くぞ」 「え、病院行くほどじゃない、」 「何か言ったか?」 絶対に連れていくというオーラが出ている龍也さんに圧倒されて僕は狐森さんの病院に連れていかれた。 「はい、大丈夫だよ。ちょっとこれで冷やしときな」 狐森さんの病院に来た僕は腕を軽く見てもらって渡された氷嚢で腕を冷やしていた。 「慧、伶の腕は大丈夫なんだろうな」 「大丈夫だって30秒前にも言った気がするんだけどさ、龍の記憶力はニワトリ以下だったりするの?」 「俺の記憶力はお前よりいいと自負している」 「はぁ。なんなんだよお前」 あまりにもしつこい龍也さんに狐森さんもため息をこぼす。 「で?俺、診療時間外に見てあげたんだから何かあるんだよね?お礼が。龍?」 「お前はそういうところ変わらないよな。何が欲しいんだよ」 「伶君と一緒にご飯食べたいなー」 「僕⁉」 急に僕に振られて声が裏返ってしまった。 「俺は優しいから龍がいてもいいってことにしてあげるよ」 「はぁ?」 「ということで今日の夜ご飯一緒にどう?」 狐森さんの一言で僕たちは夜ご飯を食べに狐森さんおすすめだというお店に向かった。

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