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第42話
「行ってらっしゃい」
「ああ、伶も気を付けるんだぞ」
「分かったよ」
マンションの入り口で龍也さんと別れる。龍也さんには和泉さんが付き、僕には椎名さんがついてくれることになった。
「何を買いに行かれるんですか?」
「龍也さんの誕生日プレゼントです!相談のってくださいね」
「それは構いませんが、私でよろしいのですか?」
「いいに決まってるじゃないですか!」
「そうですか、それならばいくらでも相談してくださいませ」
「ありがとうございます!」
車に乗り込んで30分ぐらいで目的のショッピングモールに着いた。とりあえず中に入り、お店を見て回る。
「なにか買うものの目星はついているんですか?」
「龍也さんのだから、小物とかでモノトーンのやつとかだったら仕事中でも使えるかなって思ってるんですけど」
「小物ですか、それでしたらこのお店はどうですか?シンプルなデザインの小物を置いていた気がします」
「ホントですか?じゃあそこ行ってみようかな」
椎名さんがおすすめしてくれたお店に向かう途中でふと足が止まった。
「どうかされましたか?」
椎名さんも足を止めて僕のほうを向く。
「これ、」
「ああ、会長に似合いそうですね」
「これにします。プレゼント」
「とてもいいと思いますよ」
「買ってくるので待っててもらえますか」
「分かりました。ここにいますので終わりましたらまたここにいらしてください」
「はーい」
その商品を持ってレジに向かう。プレゼント用だと店員さんに伝えると綺麗にラッピングしてくれた。お金は僕が龍也さんに会う前に貯めていたバイト代から出す。買ったプレゼントを慎重にカバンの中にしまい、椎名さんのもとに戻る。
「お待たせしました」
「いえ、お気に召す物が買えたようで何よりです。これからどうしますか?ちょうどお昼時ですが」
椎名さんが腕時計を確認しながら言う。
「お昼食べて帰りましょうか」
「ここでですか?」
「ここじゃなくても、どこか良いお店ありますか?」
「そうですね、何が食べたいかにもよりますがこの近くにオムライスが有名なお店がありますね。先日行った時に食べましたが美味しかったですよ」
「オムライス!そこにしましょう!」
「分かりました。では、行きましょうか」
「おいしー」
「それはよかったです」
椎名さんと向かい合って座って僕はオムライスを食べ、椎名さんはコーヒーを飲んでいる。
「椎名さんは食べなくていいんですか?」
「ええ、お気になさらず。あまりお腹が空いていないので」
「そうなんですか」
僕はまた一口オムライスを食べた。
「あれー?また伶がいるー」
聞き覚えのある声が聞こえてその方向を向くと案の定樹がいた。
「今日は違う人なんだー。あの人はどうしたのー?浮気ー?」
「違うから!おばさんたちのところ戻りなよ」
「えー何でよー。いとこ同士なんだからさお話ししようよー」
「僕は話すことないって」
「ひどーい。母さんたち呼んできちゃうよ?」
ここにおばさん達が来るとさらにめんどくさいことになってしまう。
「....はぁ。椎名さん、僕のいとこの樹です。少し二人でお話しできますか?」
「会長に確認してもよろしいでしょうか」
「もちろんです」
椎名さんが席を外して龍也さんに電話をかけに行く。椎名さんは案外すぐに戻ってきて僕に会釈をして会計の伝票を持って行ったから大丈夫だということなのだろう。
椎名さんが店から出たのを見計らうと樹は僕の向かいに座ってきた。
「ねえ、この前一緒にいた人ってさー天羽会の会長さんじゃない?」
座ると同時に樹が僕に言ってくる。樹には言っていないはずの龍也さんの正体。なんで樹が知ってるんだ。
「母さんたちももう知ってるよ。ねえ、これ見て」
そう言って樹がポケットから一枚紙を出した
それは「麻薬を日本中にばらまいているのは天羽会だ」と雑誌の切り抜きで書いてある紙だった。
「こんなのなんの信憑性もないでしょ。」
「これだけだったらね。だけど、父さんはこれを信憑性のあるものにできる」
おじさんは大手雑誌の編集部にいる。これを記事にしてしまうのはたやすいことなのだろう。
「龍也さんは関係ないでしょ。樹たちが僕のことを嫌いなのは知ってるけど、それならなんでこんな嫌がらせみたいなことしてくるの、関わらなきゃいいじゃん」
「腹立つんだよね、お前が幸せそうな顔してるの。だからお前は不幸せでいて欲しいの。分かる?それなのにさ、久しぶりに会ったと思ったら幸せそうな顔しててマジイライラする。お前に幸せなんか似合わねえんだよ」
「僕に何してほしいの」
そう言うと樹はニヤッと笑って僕の前に小さな小瓶を出した。
「これ飲んでよ。大丈夫、死なないから」
「僕がこれ飲んだら龍也さんに何もしない?」
「伶によるんじゃないかな。僕らの言うこと聞けば何もしないよ」
ニヤニヤしながら僕の行動を見ている樹を睨みつけて、僕はその小瓶をグッと飲み干した。
「っっ」
眠い。どんどん瞼が下がってくるのを感じながら、僕の視界はブラックアウトした。
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