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第44話
「ん、」
体が熱い。頭がふわふわする。目を開けると、コンクリートがむき出しの地面に両手を縛られて転がされていた。周りを見渡すと、何処かの廃工場のようだった。
「あ、母さん、起きたみたいだよ」
樹がもぞもぞと動いていた僕に気が付いて言う。
「あら、もう起きたの。まだ来ていないのに」
体が火照る。ぼーっとする頭を覚醒させようと樹たちを睨む。
「まだ足りないかもしれないわね。まぁいいわ、あの人が来てからにしましょう」
誰が来るんだ。だんだんに息が上がってくる。腕の拘束を解きたくて腕を少し動かした時だった。入り口のほうからおじさんと男が歩いてきた。
「来たわね」
そう言うとおばさんが僕のほうに歩いてきて僕の髪の毛を掴み上げて耳元に囁く。
「あの人らに可愛がってもらいなさい?あなたは得意でしょう?」
パッと僕の髪を離して口に何かを押し込んでくる。
「んぐっ」
口の中に押し込まれたものをごくっと飲み込んでしまう。
「なにっこれ」
体の底から湧き上がってくるように体が熱くなる。
「それじゃあね、伶」
そう言っておばさんたちはさっさと廃工場から出て行ってしまった。
おじさんと一緒に歩いてきた男が僕に近づいてくる。
「いや、来ないで」
全くと言っていいほど力が入らない体でせめてもの抵抗として腕を前に突き出す。でも、それは何の抵抗にもなっていなくて、男はすぐ近くに来てしまう。
「いやっ」
「伶さん!落ち着いてください、俺です、間宮です」
僕の耳元で小声で聞こえたのは、聞き覚えのある声だった。
「ま、みやさん?」
「はい、もう大丈夫ですからね」
間宮さんが僕を起こそうと背中を触る。
「ひゃぁっ」
「伶さん?」
背中を反らせて反応してしまった僕を見て間宮さんが軽く目を見開く。
「媚薬か。伶さん、もうすぐ会長が到着されますのでそれまで耐えられますか。とりあえず腕の拘束だけ解かせてください」
間宮さんが慎重に腕の拘束だけを解くと、着ていたスーツのジャケットを脱いで地面に敷いた。
「この上に横になっていてください」
間宮さんの声をふわふわする頭で聞いていたら、ふとカバンがないことに気が付いた。
「カバン。」
体を無理矢理起こして立ち上がる。隣で間宮さんが焦ったような声を出しているが辺りを見回してカバンを探す。あれの中には龍也さんへのプレゼントが入ってる。絶対に持って帰って龍也さんの誕生日をお祝いしてあげるんだ。
カバンを探して辺りを見回していると、入り口から何人か人が入ってくるのが見えた。
「伶!!」
駆け寄ってきてふらふらの僕を抱きとめてくれる人は龍也さんだとすぐに分かった。
「会長、媚薬を飲まされているようで」
間宮さんが説明している間に龍也さんの腕を抜け出してカバンを探す。
「伶さん、お探しのものはこれですか?」
龍也さんのもとから一歩踏み出しても足に力が入らず崩れ落ちてしまった僕の目の前にカバンが差し出される。顔を上げると椎名さんが僕の前に膝をついて目線を合わせてくれていた。
「ありがと、ございま、す」
「伶さんが万全になるまで私が預かっておきますよ。大丈夫、会長には内緒です」
「よか、た」
体の力がフッと抜けてしまった僕は龍也さんにお姫様抱っこをされながら車に乗せられ、家に帰った。
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