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第47話(慧side)
龍が出て行ったのを見送って自分は伶君のもとに向かう。
龍と出会ったのは本当に幼いころだった。お互いに大きくなっていく中で龍はどんどん人のことを寄せ付けなくなっていった。大人になってからも特定の相手を作ることなんてないだろうと思っていたけど。まさか龍に恋人ができるなんて。
ベッドの上で眠っている伶君に視線を落とす。....この子と会わなかったら、龍はどうしていたんだろうか。龍が伶君に向ける視線は俺に向いていたのだろうか。もうとっくに消えていたはずの龍への思いがふと顔を出した。そんな思いは振り払って伶君を起こす。
「伶君、」
肩をトントンと叩いて名前を呼ぶと伶君はうっすらと目を開けた。
「こ、もりさん?」
寝起き特有の掠れた声で俺の名前を呼ぶ伶君に返事を返す。
「ん、おはよう。伶君。体はどんな感じかな?」
「さっきよりは軽くなった気がします」
「そっか、まだ怠さがあったりするかな?」
伶君に聞くと、コクンと頷いた。
「わかった、起き上がることはできる?」
そう聞くと伶君はよいしょと言うように体を持ち上げた。
「うん、ありがとう」
上半身をベッドヘッドに預けるようにして座ってもらって一通りの診察をする。
「はい、お終い。特に異常は出てないね。あとは怠さが抜ければ大丈夫。寝たかったら寝ててもいいよ」
診察の結果をメモしながら伶君に言う。
「寝てなくても大丈夫だと思います」
「そう?なら少しお話してようか。龍帰ってくるまでちょっとかかるから」
まだ寝ぼけているのかどこかぼーっとした様子の伶君の隣に椅子を持ってきて座る。
「龍也さんはどこ行ったんですか?」
「んー?龍はね、ちょっと用事があってさっき出てったけど少し経てば帰ってくるよ」
「そうなんですか」
少し伶君の表情がくもった。目が覚めた時に龍がいないのは嫌だったかな。
配慮が足りなかったことを少し反省する。
「もうそろそろ龍の誕生日だね。何かやってあげるの?」
時期的に龍の誕生日が近いことを思い出し、話を振ってみる。
どうやらこの話題は当たりだったようで伶君の顔が心なしか明るくなった。
「そうなんです。龍也さんが誕生日だから何かしようと思ってて、プレゼントは用意してあるんですけど」
「そうなんだ。パーティーとかしてあげたら?龍、いつも自分の誕生日忘れてるからサプライズとかも楽しいかもね」
「サプライズですか。楽しそうですね。でも、」
伶君が言葉を止めて何かを考えるように宙を見上げる。
「どうしたの?」
「サプライズだと、椎名さんとか和泉さんにも協力してもらわないと厳しいかもしれないですね」
「なんで?」
「僕、なぜか龍也さんに隠し事しようとするとすぐばれちゃうんですよ。」
「あははっ確かに伶君すぐ顔に出るもんね」
「そんなにですか!?」
「龍も伶君のことよく見てるからね。すぐばれちゃうかも。幹部の二人にも協力してもらったらいいよ。あの二人なら協力してくれると思うよ。特に椎名くん」
「確かに!和泉さんは言っても難しい顔して『会長への隠し事は問題が..』とか言いそうですもんね」
「そうそう。椎名くんに言ってから、和泉君のほうがいいね」
「そうします!」
ぶつぶつとサプライズについて考え始めた伶君にふと声をかけてしまった。
「龍のどこがそんなに好きなの?」
伶君の顔がボンッと赤くなる。
「え、きゅ、急にどうしたんですか?」
「いや、龍について考えてるときすごく楽しそうだったから。龍、ヤクザだしちょっと気難しいところあるでしょ?だから、龍のどこにそんなに惹かれてるのかなと思って」
顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせている伶君が面白い。
「りゅ、龍也さんは、気難しかったりたまに何考えてるかわかんないし大変だけど、人に気づかれないところでいっぱい優しいことしてるんですよ。組員さんのことも自分のことみたいに考えて、伝えることは少なくてもしっかり感謝の気持ちを持ってる。一見冷たいようだけど、中身はすごく温かい人なんです。そんなところが好き?なんだと思います」
幸せそうに龍のことを話す伶君を見て、胸がチクっと痛んだ気がした。
「....そっか。俺、ちょっと診察用具とかしまってくるね。待ってて」
そそくさと使った道具をまとめて寝室から出る。
「........俺が入る隙なんて無いってことか」
ボソッと放った一言は誰にも届くことなく消えていった。
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