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第49話(椎名side)

「椎名さん!和泉さん!これとか飾りつけに使えそうじゃないですか?」 後ろに控えていた俺たちを振り返って嬉々として商品を見せてくる会長の恋人。そう、俺たちは伶さん発案、会長の誕生日パーティーの買い出しに来ていた。その名も「龍也さんをビックリさせようプロジェクト」である。 昨日、俺は会長に頼まれて伶さんに昼食を届けに行った。 「ここに昼食は置いておきますのでお好きな時に食べてください。それでは私はこれで」 昼食をいつものようにダインイングテーブルの上に置いて仕事に戻ろうとした。 「椎名さん!待ってください」 「どうされましたか?やはり普通食よりもお粥などのほうがよろしかったでしょうか」 まだ体が本調子ではないのかと聞き返す。 「そうじゃないんです。もう元気ですし」 「それなら、なんでしょうか」 「...時間ありますか?」 「そうですね。特に急ぎの用事はありませんが」 「よかった。じゃあ、座ってください」 あ、これは嫌な予感がする。と俺の頭が警鐘を鳴らす。しかし、伶さんの誘いを無下にするわけにはいかないので伶さんの向かいに腰を下ろす。 「椎名さんにお願いがありまして。聞いてくれますか?」 「ものによりますが、私にできることであれば協力させていただきますよ」 「ホントですか!?」 「はい。それでお願いというのはなんでしょうか」 「..明日の龍也さんの誕生日に龍也さんにサプライズをしたいんですよ。なので協力してもらえないかな~と」 「そうですね。サプライズとはどのようなものをお考えですか?」 「内緒でパーティーの準備をして帰ってきたらクラッカーでパーン‼みたいな」 「どこででしょうか?」 「ここ?」 「それなら私が協力するのは不可能ですね」 「何でですか?」 「会長の許可なしでここに入ったら間違いなく私の首が飛びます」 目の前でまたまた~と伶さんが笑っているがこれは比喩でも何でもないのだ。 「あ!!!」 いいこと思いついた!とでも言いたげに目を輝かせて伶さんが俺を見る。 「事務所でやったらどうでしょう?組員さん達も一緒に!!」 「それは...」 「なにか問題ありますか?」 「多分和泉が黙ってないと思いますよ?」 「...和泉さん?」 「そうです」 「僕が説得します。和泉さん今何やってますかね」 「この時間ですとフリーだった気がしますよ」 「そうですか。じゃあちょっと待っててください」 そう言い残し伶さんは携帯を片手に部屋から出て行った。 しばらくして伶さんがニコニコしながら戻ってきて、俺に親指をグッとたててきた。 「いいって言ってくれました!」 「ほんとですか?」 「ホントですよ。これから僕も事務所に行って組員さんたちに説明します!」 「今からですか。それなら早く昼食を食べてしまってください。会長には連絡しておきます」 「ありがとうございます!」 それからルンルンしている伶さんを車に乗せて事務所に向かうと、その場にいた組員たちが一体何事かとこちらを見る。伶さんが説明し終わると伶さんの頼みなら!!と組員たちもすっかりその気になっていた。 ....そこまでは良かったのだ。 夜、仕事を終えて帰宅した会長に伶さんが一言。 「龍也さん!おかえり!明日、僕幹部の二人と買い物に行ってくるね!」 にこやかな伶さんから発せられたその言葉に俺と愁はヒュッと息をのんだ。 「なんでだ」 「んー?内緒」 ダメだって!!!このタイミングで内緒なんて言ったら!! 冷や汗ダラダラで隣の愁を見ると、この世の全てを諦めたような表情をしていた。 「おい、椎名」 「はいっ」 「どういうことだ」 ヤバい怖い怖い。無理無理無理。 「龍也さん、ちょっと買い物に行くだけだって。ダメなの?明日なにかあるの?」 「いや、なにもないが」 「ならいいよね。けってーい!」 会長の有無を言わさずに買い物に出ることが決まったせいで昨日の夜から今朝にかけての会長の機嫌は最悪だった。伶さんには甘かったようなので伶さんは気づいていなかったが。 「行ってくる」 「いってらっしゃーい!」 今朝何とか会長を送り出し、俺たちは車に乗り込む。 「なぜ私たち二人を連れだしたのですか?」 車が走り出してから愁が伶さんに聞く。 「お二人は僕よりもずっと長く龍也さんと一緒に過ごしてるから僕が知らない龍也さんの好みとかも知ってるかなって。ご迷惑でしたか?」 「いえ、そういうことなら。喜んでお手伝いします」 それから色んな飾りつけ用品や飲み物などを買って回り、事務所の飾りつけも済んだ。 「いよいよですね」 愁が会長を迎えに行っている間に伶さんが話しかけてくる。 「そうですね。そろそろ到着する頃だと思いますよ」 会長が事務所の前に着いたら愁から着信が入ることになっている。 「龍也さんビックリしますかね」 「今朝の様子ですと今日が誕生日のことをすっかりお忘れになっている様子でしたからね」 「龍也さんが誕生日忘れるのってよくあることなんですか?」 「毎年ですね。私共が声をかけて初めてお気づきになるといった感じでした」 「そうなんですか」 「あ、伶さん。これを」 「プレゼント!預かっててくれたんですね。ありがとうございます」 「会長もお喜びになると思います」 「そうだったら嬉しいですね」 プrrrrrrrrr 俺の携帯が鳴った。 「いらっしゃるぞ」 ガチャっとドアが開いた瞬間、無数のクラッカーが弾けた。

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