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第51話
暗い。真っ暗だ。ここはどこだろう。
辺りを見回すとボヤっと遠くに二つの明かりが見えた。フラッと吸い込まれるようにその明かりの方向に歩いていくと、数年ぶりに見る顔があった。
「....お、とうさん?おか、あさん?」
数年ぶりの両親の顔に嬉しくなって駆け寄ると、二人とも見たこともないような冷たい表情で僕を見下ろした。
「なぜ伶だけ幸せそうにしているの」
「俺たちのことは忘れたのか」
「え、、違う!忘れてなんかない!忘れるわけ」
必死に否定して縋りつこうとすると立っていた地面が抜けて下へ下へと落ちていく。
「お母さん!お父さん!」
落ちていきながら必死に親のことを呼ぶ。また優しく笑って名前を呼んでくれることを願って。
落ちていった先に見えたのはいつも優しい顔で微笑んでくれる最愛の人。
「龍也さん!」
愛しい人の名前を呼んで駆け寄ってもいつもの優しい顔は待っていなかった。
「別れよう。伶」
「え、嫌だ。いやだよ。龍也さん!」
「お前は俺の足手まといにしかならない」
「やだ!待って!龍也さん!」
ボロボロと流れ出した涙を止められないままひたすら龍也さんの名前を呼ぶ。
「やだ、やだよぉ。龍也さん。待ってよ」
「俺の邪魔なんだよ。お前」
龍也さんが冷たい表情で言葉を放ち、暗闇に消えて行ってしまう。
「やだ、やだ。置いてかないでよ、一人にしないでよ。いやだぁ!!」
「伶!伶!」
パチッと目を開けると心配そうな表情で僕の顔を覗き込む龍也さんがいた。
「りゅう、やさん?」
「大丈夫か?随分うなされていたようだが」
目の前にあるいつもと変わらない龍也さんの顔に安心して手を伸ばす。龍也さんの頬に手を置いて目を合わせる。
「ちゃんといる?」
「ああ。俺はここにいる。安心しろ」
僕の目から流れ出した涙を優しく拭ってくれる龍也さんの手にまた涙があふれてくる。
「おいで」
ベッドの上に胡坐をかいて僕に向かって両手を広げる龍也さんに飛びつく。それでも倒れることなくしっかり抱きしめてくれる龍也さんが愛おしくてたまらなくなる。
「まだ深夜だ。寝れそうか?」
「寝たくない」
「そうか。じゃあこのままでいような」
龍也さんが背中をポンポンと叩きながらもう片方の手で髪の毛を梳いてくる。
僕は龍也さんの肩に顔を埋める。
どれぐらいそうしていただろうか。ふと顔を上げて窓を見ると、カーテンの隙間から明るくなってきた外が見えた。
「ごめんなさい、もうこんな時間。龍也さん仕事なのに」
「大丈夫だ。それよりも落ち着いたか?」
優しい微笑みをうかべながら僕の様子をうかがってくる。
「うん」
「それならいい。俺は仕事の準備をするが伶はどうする?眠いなら寝ててもいいが」
「起きる」
「分かったよ。じゃあ起きるか」
二人でリビングに行って僕がソファーに腰を下ろすと、キッチンのほうから龍也さんの声がした。
「伶、カフェオレか紅茶どっちがいい」
「カフェオレがいい」
龍也さんの問いに返事を返し、僕もキッチンに行く。
「ん?どうした?持っていくからソファーにいていいぞ」
「カフェオレ甘くして」
「分かったよ」
二人分の飲み物を準備している龍也さんの後ろから腕を回して抱き着く。
「どうした」
困ったように僕を振り返る龍也さんの背中に顔をぐりぐりと押し付ける。
「ほら、出来たから。一回離れてくれ」
「やだー」
「困ったな」
僕が後ろに引っ付いたままという何とも動きにくい体制でソファーまで移動して、二人で龍也さんが用意してくれた飲み物を飲む。
その後も龍也さんにくっついて歩きながら龍也さんが朝の準備を終わらせるのを見届けた。
「もし家に一人でいるのが寂しいようなら俺の仕事部屋に来るか?仕事中は構ってやれないが」
家を出る直前に龍也さんからされた提案に速攻で頷いて僕も人生で一番早いんじゃないかというスピードで準備を終わらせた。
「もう終わったのか?それじゃあ行くぞ。下に車が待ってる」
そう言って出て行った龍也さんの後ろを追いかけるように僕も家を出た。
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