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第53話

「ふぅお腹いっぱいだね」 「結構食べてたからな」 龍也さんと一緒にご飯を食べに行って帰ってくるとソファーにぼすっと座る。龍也さんもネクタイを緩めながら僕のところに歩いてきて僕の隣に座った。 「そうだ、伶。これ渡しておくな」 思い出したように龍也さんが言って僕に差し出したのは一台の携帯電話だった。 「?僕携帯持ってるよ?」 「その携帯は俺と和泉と椎名の番号しか入っていないだろう?こっちの携帯には俺たち三人のほかに何人かの組員の番号が入っている。出かけたくなったりしたらここに入っている誰かに連絡すればすぐにここに迎えに来る」 「それなら僕の携帯に入れれば良かったんじゃ..」 「必要以上に伶の携帯の番号を登録させたくないんだ。番号が漏れる可能性もゼロではないからな」 「ふーん。分かった、ありがとう」 よく思い出してみれば龍也さんも僕に連絡する携帯と仕事で使ってる携帯は別だった気がする。龍也さんも大変なんだなーとか呑気に考えながら渡された携帯を弄っていると龍也さんが風呂に入ってこいというので間延びした返事を返して浴室に向かう。 お風呂から上がってリビングに戻ると龍也さんが誰かと電話をしていた。何となく仕事の電話をしているような雰囲気ではなかったから友達と話しているのかなと思いながら冷蔵庫から水を取り出して飲みながら龍也さんを盗み見る。 「...ああ。楽しみにしてる。じゃあな」 龍也さんは風呂から僕が出てきたのを見ると電話を切る。 「友達?」 「ああ。知り合いからだった」 「そうなんだね。お風呂入ってくる?」 「そうだな。先に寝てるか?」 「一人で寝るのヤダもん。待ってる」 「そうか。じゃあ急いで入ってくるな」 ソファーに座ってテレビのチャンネルを変えながら暇を潰していると龍也さんが置いていった携帯が鳴った。ふと携帯に視線をやると画面に表示された名前が見える。 「え、、、」 その画面には明らかに男の人の名前ではない紗友里という名前が表示されていた。 「.....紗友里って誰」 ずっと鳴っている携帯の着信音が嫌で拒否のボタンをタップする。 着信音は鳴りやんでいるはずなのに頭の中ではずっと着信音が鳴り響いていた。「龍也さんがお風呂から出てくるのを待って聞けばいい」そう思っていても最悪な妄想ばかりが広がっていく。ぐるぐると一人で考えていると昨日の夢の中の龍也さんが脳裏に浮かぶ。僕のことを邪魔と吐き捨てた龍也さんの顔が頭から離れなくなってくる。一人で寝室へと向かい、布団をかぶる。 少ししてから龍也さんが伶?と呼びながら寝室に入ってくる音が聞こえたが、今は龍也さんの顔をまともに見れる気がしなかったから布団を頭までかぶって寝たふりをする。 ぎしっとベッドが軋む音がして、おやすみという言葉と共に頭に軽いキスが落とされた。龍也さんはまだ寝ないようで、寝室から出て行く音がした。 龍也さんに聞かなければいけないと思ってはいても、返答が怖い。ベッドからかすかに匂う龍也さんの匂いに涙が込み上げてきて、僕は声を殺して泣いた。

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