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第61話

「はぁ~!楽しかったわね」 「はい!久しぶりにこんなに遊びました!」 僕たちは家を出た後近くのショッピングモールに来ていた。二人でお店を見て回り、ショッピングモールの中にあるカフェに入る。 「ここのケーキが美味しいって聞いてね、ずっと来たかったのよ」 「そうなんですね。わぁほんとだ、おいしそう」 店員さんが持ってきてくれたメニューを見ると、たくさんの種類のケーキが乗っていた。 「紗友里さんは何食べますか?」 メニューから顔を上げて問いかけると優しい顔をして僕のことを見つめる紗友里さんと目が合った。 「?紗友里さん?」 「あ、ごめんなさいね。ちょっとぼーっとしちゃったわ」 どれどれ~と紗友里さんもメニューに目を落とす。 「ん~っこのケーキ美味しいですね!」 「そうね、お土産に何個か買っていきましょうか」 「はい!」 散々迷って僕は大きなイチゴの乗ったショートケーキ、紗友里さんはモンブランを頼んだ。 「伶君が龍也と一緒になるって決めた時誰かに伝えたの?文也さんのところには来たみたいだけど」 「あ~、僕には伝えるような人はもういないんです。僕の両親は僕が高校に入った直後に亡くなりましたし、親戚も僕を嫌っているので」 「そう、なの。ごめんなさいね。辛いこと聞いてしまって」 「いいんです。ずっと独りぼっちだったけど、今は龍也さんが一緒にいてくれるので僕は幸せです」 「伶君からその言葉を聞けて良かったわ」 「どういう意味ですか?」 僕に優しく微笑みを向けながら言った紗友里さんに聞き返す。 「少し、私の話を聞いてくれるかしら?」 「もちろんです」 「伶君。龍也の恋人になるということは必然的に龍也が統べる天羽会の姐になるということなのよ。姐という立場は組を隣から支えるなんて言ってしまえば聞こえはいいでしょうけど、どんなことにも動じずに組を支える役割なのよ。もし、あなたの愛する人が撃たれようと刺されようと組員の前では平静を装って組を動かさないといけないわ。これからそういうことが起こらないとも言い切れない。多分龍也は伶君はそんなことする必要ないと言うと思うけど、姐という立場は組に必要不可欠だと思っているの。伶君がどうしても辛くなった時に隣に龍也がいなかったらきっと伶君は一人で抱えてしまう、それは本当にいけないことよ。伶君がつぶれてしまうわ。 だからね、伶君。もし何かあったら、あなたの味方は天羽会だけじゃない。天竜会にもいるってことを覚えておいて。これが私からのおねがいよ。分かった?」 「はい、ありがとうございます...僕、両親が亡くなったとき一回だけ自分で死のうとしたことがあるんです。あ!これ龍也さんには言ってないので内緒ですよ?まぁ失敗して目が覚めたら病院のベッドだったんですけど。あたりまえだけどその時僕の病室にお見舞いに来てくれる人なんて一人もいなくて、自分のことを心配してくれる人はいなくなっちゃったんだって思いました。でも今は僕が指をちょっと切っただけでも絆創膏片手に飛んでくる龍也さんもいますし、組員さんたちも僕にみんな良くしてくれて、また自分の居場所を見つけた気がするんです。だから、僕が姐という立場に立つことで組のみんなに恩返しができるなら僕は喜んで姐になります」 紛れもない僕の決意だった。僕に居場所をくれた龍也さんに、天羽会に、これが僕からの恩返し。 「そう。伶君は私が思っていたよりも強い子なのね。関心するわ」 そういって紗友里さんは手を伸ばして僕の頭を優しくなでた。僕は視界がぼやけたのを気づかないふりをした。 お店を出る前にお土産のケーキを二人で選んで受け取ってからお店を出る。 お土産のケーキを片手に車に乗り込んで龍也さんの待つ家に向かっていった。

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