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第63話

最近、僕は龍也さん不足である!!!! 「龍也さん?まだ寝ないの?」 「ああ、もう少しかかりそうだ。悪いな、先に寝ててくれ」 「......わかった」 そう!!!龍也さんが最近めっちゃ忙しいのである!!! 前までは仕事を家ですることなんてなかったのに、最近は帰ってきてもパソコンを遅くまでカタカタ、「それなら朝だ!」と思って苦手な早起きを頑張っても龍也さんはすでに起きていてリビングで仕事をしていた。 「はぁ、今日もひとりかぁ」 一人でベッドに横になる。冷たいベッドには大好きな体温も、抱きしめてくれる腕もない。無性に悲しくなってきてベッドの中で小さく体を丸める。 「寂しいなぁ」 ぽつりと言葉をこぼすと、ベッドがギシッと軋んだ。 「伶」 「へ!?龍也さん!今の聞いてた?!」 「ああ」 「うわあ、恥ずかし、」 顔に熱が集まるのが分かる。 「伶、ごめんな」 龍也さんの心底申し訳そうな声に布団から顔を出して笑顔を向ける。 「大丈夫だよ!忙しいんでしょ?お仕事頑張って!...でも、忙しいの終わったらいっぱい構ってね」 龍也さんの手が伸びてきて僕の頭をなでる。 「今週の金曜日の商談が終われば忙しいのも終わるんだ。ごめんな」 「金曜日??じゃあ僕、金曜日までいい子で待ってるね」 「ああ、終わったら好きなところどこでも連れて行ってやるから。デートしよう」 「ほんと!?楽しみにしてる!」 名残惜しそうに僕の頭をクシャっとなでた龍也さんが寝室から出て行った。 「金曜日まで、金曜日が終わったら、デート...ふふっ」 デートが楽しみで布団の中で一人ニヤニヤする。 「楽しみだなぁ」 寝て起きたら金曜日が終わってるといいのになぁなんてあり得ないことを考えながら眠りについた。 本日!!!木曜日です!!!!明日が終わればデート!!!! 龍也さんは帰って来てからずっとパソコンとにらめっこ中でございます。邪魔しちゃいけないと思い、キッチンにコーヒーを注ぎに行く。龍也さんは今日も遅くまで仕事をするんだろうから少し濃い目のブラック、僕はコーヒー飲むと眠れなくなっちゃうからミルクを電子レンジで温めてホットミルクにする。 「はい、コーヒー。置いとくね」 龍也さんにコーヒーを差し出すと龍也さんはチラッとこっちを見て微笑んだ。 「ありがとうな、伶」 「明日だね、頑張って」 「ああ」 「僕これ飲んだら先に寝るね」 「ああ、ゆっくり休めよ」 それは龍也さんだよと心の中で突っ込んで寝室に向かう。ベッドサイドのテーブルにホットミルクを置いて、携帯でデートで行く場所を探してみる。30分ぐらいホットミルクを飲みながらそうしてると体がぽかぽかと温まってきて瞼が重くなってきたから、布団にもぐる。 「デート...楽しみだなぁ」 眠りにつく瞬間までデートのことを考えながら眠りに落ちた。 「ん、んん~っ」 今日は何曜日だ?と考えてハッと意識が覚醒する。 「金曜日だ!!!」 隣でスーツに着替えていた龍也さんが突然飛び起きた僕をギョッとした目で見ている。 「おはよう、伶」 「おはよ、今日だね!頑張って」 「ああ、ありがとう。伶」 ネクタイを締めて、龍也さんの準備は完了。 「行ってくるな。今日は椎名も和泉も俺の商談についてくるから、昼食は間宮か池澤が持ってくるからな」 「うん、ありがとう。........っ」 龍也さんを玄関まで送ろうと立ち上がろうとすると、腕に力が入らない。 「伶?どうした?」 「う、うんん、何でもない。行ってらっしゃい、頑張ってね」 何か嫌な予感がした僕はベッドから出ることなく、龍也さんを見送った。 「...?ああ、行ってくる」 そういって龍也さんが寝室から出て行って、玄関のドアが閉まる音がした。 もう家に足音がしないことを耳を澄ませて確認し、そろっと足を床に降ろしてみる。グッと力を入れて立とうとするが、僕の足は言うことを聞かず、ガクッとその場に崩れ落ちてしまった。 「ははっ、これは...やばい?」 布団から出た瞬間にぞくっとした寒気と、変に痛い関節。気のせいであってくれと祈りながらやっとの思いでリビングにある救急箱から体温計を取り出して、わきに挟んでぼすっとソファーに座る。 しばらくして体温を測り終えたことを知らせる音が鳴る。そおっと体温計を取り出し、薄目で確認する。 「...うそ」 表示された体温は37.8度。平熱とは程遠い温度だった。 「風邪......引いた?」 自分が風邪をひいたことを認識するとだんだんに頭痛がしてきて、頭がぼーっとし始める。 お昼は、間宮さんか池澤さんが来るって言ってたな。具合悪いのばれたら龍也さんに連絡いくよね。だめだ、今日は大事な商談だって言ってたもん。今日のために龍也さん頑張ってたし、無駄にするようなことはしたくない。 ぼーっとしている頭を気合でフル回転させていろんなことを考える。 「とりあえず、寝よ」 ベッドに戻って寝て起きた時にはよくなっていることに賭けることにした。実を言うとベッドまでまた戻るのもだいぶ怠いが、間宮さんたちが入ってきたときにソファーでなんか寝てたら真っ先に具合が悪いことを心配される。 よく考えた僕、えらいぞ。と謎に自分の頭を褒めながらえっちらおっちらベッドにもどる。 玄関のチャイムの音で目を覚ます。 あ、もうお昼か。昼食を持ってきてくれたのであろうチャイムに答えなければと体を起こすと、グワンと視界がゆがんだ感じがした。鳴っているチャイムに早く出ないと心配した間宮さんたちが龍也さんへ連絡をしてしまうかもしれない。それだけは避けなければとやっとの思いで立ち上がる。立ち上がった途端にぐらっと傾く視界と、ひどい頭痛、体の痛みも襲ってきて涙が出そうになるが、自分の体に鞭を打って玄関に歩く。 「あ、伶さん。なかなか出ないもんだから、心配しましたよ」 玄関のドアを少し開けて外を覗く。まぁ、普段は何の警戒もなく全開にしてしまうからこれも大分怪しいことに変わらないのだが、見られたら確実にばれるのでドアを開けることはしない。 「あの?伶さん?昼食持ってきましたよ?ドア、開けてくださいませんか?」 ドアの向こうで間宮さんがなかなか中にいれない僕に不思議そうに声をかけてくる。 「あ~ちょっと今散らかってて、ドアの前に置いておいてくれませんか?後でとるので」 「あ、俺全然気にしないんで、机に置くところまでやらせてください。そういう指示なので」 やばいという三文字が頭の中で回転している。 「伶さん?何かありましたか?ちょっと失礼します!」 なかなか返事をしなかった僕を不審に思い、間宮さんがドアをグッと力を入れて開ける。当然僕にそれを阻止する力はなくて、いとも簡単にドアが開く。 「なんだ、何もないですね。俺、てっきり侵入者に脅されてたりするもんかと。伶さん!?」 ドアが開いた拍子に玄関にしりもちをついたまま動けず、肩で息をする僕を見て間宮さんが慌てに慌てる。 「すいません!そんなに勢いよく開けたつもりなかったんですけど!って体アツっ」 「伶さん、もしかして...」 「ちょっと、かぜ、ひいちゃった、、みたいで。ぜんぜん大したことないんで、、気にしないでください」 「そんなわけないじゃないっすか!体めっちゃ熱いですよ。と、とりあえず椎名幹部に連絡を!」 大慌てで携帯を取り出した間宮さんの腕をつかむ。 「伶さん?」 「いや、ほんと、大したことないんです。連絡、、しなくていいです」 「そういうわけにはいきません」 僕から手を離して、連絡をしている間宮さんの後ろ姿を追うように立ち上がろうとする。でも、足に力を入れて立とうとした瞬間にぐらっと視界が暗くなって僕が立ち上がることはできなかった。 「れんらく、、、しないで」 力を振り絞って紡いだ声は誰かに届いたのだろうか。

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