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第64話
「お疲れ様です、会長。お見事でした」
昼過ぎ、商談を終わらせて幹部の二人と取引先を後にする。早く帰って伶に構ってやりたいという思いで自然と歩みが早くなる。
「ああ、最近は忙しくて伶にも構ってやれていなかったからな。早く帰って構ってやらないと伶が拗ねる」
「ええ、本日はこれでご帰宅いただいて問題ありません。明日、明後日も休日ですのでごゆっくりお休みください」
「そうするつもりだ。お前らもしっかり休めよ」
「お気遣いありがとうございます」
運転手が待機する車に乗り込み、家路につく。
vvvvv…vvvvv
「すいません。失礼します」
助手席に座っていた椎名の携帯が鳴る。
「構わん」
「なんだ、間宮。なんだと?伶さんが?」
「どうした?」
伶に関する連絡がきたということは椎名の雰囲気から明らかだった。
「会長、伶さんがひどい熱で倒れたと、、」
「なんだと?」
「間宮が今介抱をしていますが、熱も高く苦しそうだということです」
「和泉、慧に連絡してすぐに家に向かうように言ってくれ。俺も家に急ぐ。間宮に引き続き伶を見ているように頼んでくれ」
「「かしこまりました」」
和泉が隣で携帯を取り出し、慧に連絡をしている。
自宅の前に車を止め、急いで伶のもとへ向かう。
「和泉、慧はいつ来れる?」
「連絡をしたときにすぐ向かうとおっしゃっていましたので、時間的にもう間もなく到着されるかと」
俺たちが足早にマンションのエントランスに入っていくと、後ろから走ってくる足音が聞こえた。
「龍!伶君が倒れたって」
「俺も連絡を受けて急いで帰ってきたんだ」
「そうなんだね。とりあえず見に行こうか」
「ああ」
俺たち四人が家の玄関を開けて入っていくと、間宮が駆け寄ってきた。
「会長!幹部のお二人に、先生も!」
「伶はどうだ?」
「さっき寝室に連れて行って寝かせたんですが、すごく辛そうで」
「わかった。よく見ていてくれた」
寝室に入ると眉間にしわを寄せて、苦しそうに息をする伶がベッドに横たわっていた。
「伶、ただいま」
伶のわきに腰かけて、顔にかかっている髪をよける。
「りゅ、やさ?ごめ、いそがしのに」
薄く目を開けて辛いだろうに俺に謝る伶に微笑みを返す。
「大丈夫だ。仕事は問題なく完了した。我慢させたな。悪い」
「おわ、たの?よかった」
浅く息をしながら言う伶が愛しくてたまらない。
「はーい、ちょっと龍退いて。診察したいからね」
慧が俺を押しのける。
「こんにちは、伶君。辛いだろうけどごめんね。診察だけさせて」
「ん、はい」
そういって慧が伶に診察を始める。
「んー熱高いね。頭は痛い?」
「ん」
伶は言葉を発するのもつらいようで、慧の質問に頷いたり横に首を振ったりして答えている。
「はい、終わり。頭の痛みもひどいみたいだから点滴しようか」
慧が診察用のカバンを開けて点滴の準備をし始める。
「伶君、点滴するからね。ちょっとチクッとするよ」
慧が伶の腕に針を刺そうとしたとき、伶があからさまにビクッとしたのが分かった。
「や、いらない」
伶が腕を布団の中に引っ込めて頭から布団をかぶってしまう。
「あちゃ~注射怖いかー。どうしようかな」
「慧、それは必要か?」
「点滴がってこと?点滴を打てばだいぶ頭の痛みが抑えられると思うから楽になると思うんだけど」
「そうか」
布団がぼこっと膨れているところに手を置いて、伶に話しかける。
「伶、ちょっとだけ頑張ってみないか?これ頑張れば楽になるから」
布団の中からの返事がないので、少し布団をめくって中を覗く。
布団の中で小さくなっている伶を見つけて、自分も布団に入る。ベッドヘッドに腰を下ろし、伶の体を自分にもたれかけるようにする。
力が入らないのだろう、俺にされるがままになっている伶を後ろからぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫だからな」
伶を抱きしめた状態で慧に目線で合図する。
「はーい、伶君、痛くないよ~…はい!頑張った、おしまい」
「よく頑張ったな」
慧が素早く針を刺し、処置をする。
伶の体を褒めるように抱きしめて、もう一度ベッドに寝かせる。
「点滴終わったら教えて。僕はほかの人と一緒にリビングにいるから」
「わかった」
寝室から慧が出ていき、寝室には俺と伶の二人だけになる。
ベッドサイドに椅子を持ってきて腰を掛ける。伶の頭をなでているといつのまにか伶は、眠りに落ちていた。
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