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第2話 一杯やろうぜ
会社を出た奏太は一駅隣のアイリッシュパブに顔を出した。
奥のカウンターで晴臣が手を上げている。
「待たせた、すまん」
「飲んでたから大丈夫」
ビールとソーセージ、フィッシュアンドチップスを頼んで腰を下ろす。
晴臣が奏太の顔を覗きこむ。
「なんか疲れてんじゃん」
「え、顔に出てるか」
「うん。なんか目に力がない。奏太の魅力半減よ」
「来週からまた遥に会えない事が決まったからかな。とりあえず二週間。もしかすると何回か行くことになりそうだけど」
弟の遥を溺愛している奏太は、ため息混じりに頬杖をつく。
晴臣は魅力半減と茶化したが、ため息をついた横顔は愁いを帯びて、むしろ美しい顔立ちを引きたてている。
曇り一つない白い肌に、ややたれ目だが色気をまとった目元、細く通った鼻筋と薄い唇は、男女問わず惹きつける。
今も現に数席離れたところの客がぼうっと奏太に見惚れている。
「どこ行くの」
「愛媛」
「またこの時期暑そうな所に」
「しかもなあ……なんと言うかその、……」
ごにょごにょと奏太が語尾を濁す。
「なんだよ奏太。はっきり言えよ」
「う……俺の節操の危機が」
「は?!」
晴臣がビールを吹きかける。
「いや、ごめんごめん。何それ、どうしたんだよ」
テーブルをおしぼりで拭きながら晴臣が聞く。
「愛媛の支部に、一人ヤバイ男がいるんだよ。見た目は今時の俳優みたいな感じで優しげで女にモテそうなんだけど、超がつく男好きらしい」
「ほうほう」
「愛媛支部に行くのはこれで2回目なんだけど、2年前は行った初日に、事務のおばちゃんにあんた好みのタイプだから気を付けなさいって言われた」
「オープンな奴なんだ」
「そう。愛媛支部は独身寮があって、そいつ―遠山縁 っていうんだけど―そいつも当然入ってて。単身赴任者もそこにぶちこまれるんだ」
「じゃあ一つ屋根の下に!」
「もちろん風呂も共同」
「ひゅー」
「しかも、今回の話、どうも遠山と組んでやる仕事のような気がしてる。……あ、どうも」
ビールとソーセージが運ばれてきた。
「じゃあ、話の途中だけど奏太の貞操の無事を祈って乾杯」
「乾杯」
力なくジョッキを当てる。
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