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第3話 どうしよう、からの再会

「前回行った時も、飲み会で飲みすぎて、眠りかけたらあいつが側にいたんだよ!つーか何故か俺が遠山にもたれ掛かって寝てた」 「あらやだ可愛い。じゃなくて奏太が飲みすぎるなんて珍しい」 「向こうはやたらと強い人が多くて、ペースを乱された」 ソーセージに歯を立てると、小気味のいい音を立てて皮が破れる。肉汁と共にビールを流し込む。 「俺は遥以外は興味ないんだよ!」 遥は奏太の5歳年下の弟で男の娘をやっている。奏太は遥を溺愛してやまない、のだが。 「あ、それじゃん。彼女いるって言って遥ちゃんの写真見せればいいじゃん」 しかし奏太はぐったりと首を振る。 「前回やったんだよ。そしたら目敏くて、「輪郭似てますね。従姉妹とかですか?」って」 「メイクしたやつだろ?すげーな遠山」 「俺の回りに聞けば、仲のいい弟がいることはすぐバレるし、あいつならそっから写真は女じゃなくて弟だって察する気がする」 「まーまー、考えすぎだって。奏太だって男なんだから、力ずくでねじ伏せられることもないだろ」 「まあな」 「壁ドンされる奏太も見てみたいけどな」 「やめろ、縁起でもない」 晴臣が手をあげて、ビールとレバーパテとシェパーズパイを追加注文する。 「あ、そうか。いいこと思い付いた」 不意に晴臣がぱちんと指をならした。 「なんだよ」 「奏ちゃんになればすべて解決じゃん。その遠山に狙われることもないし」 「その代わり日常が悪夢じゃないか。代わりに晴臣に狙われるわけだろ。遥との関係もアウトになるし」 「だめ?」 「だめ」 パテの乗ったバゲットを齧りながら断言した。 「夢の中の遥、ちょっと怖いくらいだったからな」 「へー。俺の夢の中ではいつも通り奏太と仲良しだったんだけどなあ」 「つーか、なんで俺だけ好みなんだ?遥だって兄弟なんだから似てるだろ。もちろんお前には指一本触れさせないが」 「目元の色気が違うんだよ。それに遥ちゃんは可愛らしすぎてなあ。俺の好みからは外れるの」 「ふーん。そういえばこの間写真見せてくれた茉莉?って女は?それなりに美人だったけど。スタイルも良かったし」 「そろそろ別れそう。色気が足んない。あと、距離感がなあ……」 「距離感?」 「いろいろ世話やいてくれるんだよ。野菜食べろとか部屋片付けたりとか。嫉妬というか疑り深いし」 「だいたいの女はそうじゃないか?むしろ世話焼きなのはプラスだと思うが」 「うーん。俺のわがままかもしれないけど、ほっといてほしいんだよな。その代わり浮気しないから。何て言うか、世話を焼いてほしいんじゃなくて、崇めたいの。俺は。女神様が欲しいの」 「お前の好みは難しいな。俺も人の事言えないけど、あんまり長く続いた女いないじゃないか」 ジョッキに残ったビールを飲み干して、晴臣はため息をついた。 「そうなんだよなー。なんかしばらく女はいいかな……奏ちゃんいるしな」 「夢の中にな」 「あー、もしかしたらその遠山ってやつと俺話合うかも」 「思い出させるなよ……向こうは男好きだぞ」 「あ、そうか。じゃー奏太って理想が実在するわけか。いーなー」 「いや、理想とは限らないから」 その日はほどほどに飲んで解散した。 そしてあっという間に翌週。 愛媛支部に着いた奏太は受付から部署へ電話した。 すぐに行くとの返事があり、エントランスのソファに座って待つ。 すると、外から入ってきた男がいた。 「……あれ、香住さんじゃないですか?」 振り返る前から嫌な予感。 「はい?」 やはり、そこにいたのは遠山縁だった。 細身で小さな顔、涙袋がふっくらして優しげな雰囲気の目をしているが、口元はきりっとしていて、ある種中性的な雰囲気もある。いわゆるイケメンだ。 「俺、遠山縁です。前回香住さんがいらっしゃった時にもお世話になった」 「ああ!ご無沙汰してます」 今思い出したような演技をする奏太。 「今回も多分ご一緒すると思います。よろしくお願いしますね」 縁はにこりと感じよく笑って頭を下げた。笑顔になると可愛らしい。 奏太も頭を下げる。 「こちらこそよろしくお願いします」

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