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第4話 油断ならないやつ
初日は打ち合わせと説明で一日が終った。
やはり今回も奏太は縁と仕事をすることになるらしい。
縁が今回初めてプロジェクトのリーダーをすることになった。
初めてということでサポートが欲しいが、支部では別の大きいプロジェクトが動いており、人員が割けない。
それでサポートのため奏太が呼ばれたというわけだ。
サポートなので、2週間奏太は縁につきっきりとなる。
先行きを思って奏太が落ち込んでいると、
「香住さん、寮はご覧になりました?良ければ俺が案内します」
「あ、是非お願いします」
追い討ちをかけるような縁のアタックだ。
寮は会社の隣にあり、どうやら最近建て直したらしい。共同風呂は回避した。
「綺麗になったんですけどねー。運良くというのか、ばたばたっと結婚が続いて、今人数少ないんです」
外見は小綺麗なマンションだ。
「俺の部屋の隣、角部屋が空いてるんでそこで申請出しときました。3階です」
「あ、はい。ありがとうございます」
さすが、手回しのいい男だ。
エレベーターで3階に向かう。並んで立つと、縁は170センチくらいだろうか。奏太よりいくぶん背が低い。
確かに力ずくはないよな、と晴臣との会話をふと思い出した。
縁がふと言い出す。
「そういえば、香住さんって背高いですよね。何センチくらいなんですか?」
「190ないくらいですかね」
思考を読まれたようでぎくりとする。
「いいなあ。背が高いの羨ましいです」
「いやあ、服選ぶの大変だし、いいことないですよ」
3階に着いて、一番端の部屋に入った。
1LDKの簡素な部屋だが一人なら十分だろう。
バス、トイレも別になっている。どうやら共同風呂は回避できたようだ。
縁が言う。
「寝具は押し入れに布団が入ってます。洗濯機はないので、近所のコインランドリーを使っていただくか、俺がいるときなら言ってもらえれば洗濯します。歩いて数分のところにコンビニがあるんで、飯はそこか、近所のラーメン屋か定食屋をオススメします」
キッチンを覗くと、電子レンジだけは置いてあった。
前の住民が置いていったのだろう。
「あと、分からないことがあったらいつでも俺に聞いてください」
気の利きっぷりが逆に怖い。
「ありがとうございます。何かとご面倒をお掛けしますがよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
それだけ言い置いて、縁は去っていった。
ようやくほっと一息つく。
とりあえず荷物をほどいて、ワイシャツなど皺になりやすいものをクローゼットにかける。
その他の荷物を適当に出していると、ドアをノックする音。
ドアを開けると縁が立っていた。
「すいません、言い忘れました。今日19時から近所の飲み屋で歓迎会やるんで、是非いらしてくださいね」
にこやかに言って戻っていった。
出た。飲み会。今度こそ気を付けなければ。
事前にウコンでも飲んでおこうか。
とりあえずは、足りないものを買い足すべく、コンビニに向かった。
「どうしちゃったんだよ遥ちゃん。来るなりそんな落ち込んで」
晴臣の店では、遥がカウンターに突っ伏していた。
「だって、だって……」
「笑顔じゃないなんて、遥ちゃんらしくないよ」
「笑ってなんかいられませんよぅ。奏太が心配なんです」
「どうしたのさ?」
先日奏太が貞操の危機に怯えていた事を思い出すが、口止めされているので知らないふりをする。
「今日から愛媛に行ったんですけど、なんか浮かない顔してて、出掛けるときも上の空だったんですよぅ」
「連絡してみたら?」
「二人の約束で、出張中は連絡しない事になってるんです。会いたくなっちゃうから」
そういえばそんなことを昔奏太が言っていたなと思い出す。
「大丈夫だよ。危険なところに行ったわけじゃないんだから。国内だよ?」
「そうなんですけどぉ……」
「何かあったらさすがに連絡してくるって。便りがないのは元気なしるしって言うだろ?さ、着替えて着替えて。写真撮るんだから」
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