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第16話 お誘い
寮への帰り道、縁がふと言い出した。
「来週、奏太さん帰っちゃうんですよね」
「近い内にまた来るがな」
「でも、まだ日程決まってないじゃないですか。プチ送別会しません?……要するに、部屋飲みしませんか?」
「あー……。うん。構わない」
「よっし!じゃあ俺、酒とつまみ買っておきますね!場所は……俺の部屋のほうが物があるんで、こっちのほうがいいですよね」
「それなら、ちょっと事前に部屋を見せてもらってもいいか?」
「へ?ええ。いいですよ。散らかってますけど」
三階に上がり、縁が部屋の鍵を開ける。
「邪魔するぞ……キッチンを見せてくれ」
「はい」
それほど自炊をしているようではなかったが、鍋や包丁、フライパンなど必要最低限のものはあるようだ。
「ふん。そこそこ使えそうだな。……この段ボールは何だ?」
埃っぽい小さな段ボールが床に置いてあるのに目を止めた。
「あはは。じゃがいもです。伯父が家で採れたのを送ってきたんですけど、俺あんまり料理得意じゃないんで、レンチンして食ってます」
「もったいないな。それと冷蔵庫の中身使ってもいいか?つまみは俺が作るよ」
「え!作ってくれるんですか!それはもう、好きなだけ使ってください!あと足りないもの言ってください!買い出し行ってきます」
散歩をねだる子犬のように、目をキラキラさせながら縁が命令を待っている。
奏太は苦笑して、
「ちょっと待ってくれよ。今メニュー考えるから」
しばし腕組みして考えていたが、冷蔵庫の中身をもう一度確認して、携帯に何やら打ち込んだ。
「買い物メモを送った。頼むぞ」
「了解です。酒は何が欲しいですか?」
「俺はビール、ハイボールくらいが飲めればいいかな。飲みたければワインでもいいが。金はすまんが立て替えておいてくれ。後で割り勘にしよう」
「はい!」
「俺は疲れたから部屋で一眠りするよ。17時になったらまた来る。買い物はそれまででいい。それじゃ、また後で」
それだけ言うと、奏太は縁の部屋を出て自室に入った。
背後では縁が早速出掛けていく物音がして、奏太は思わず苦笑した。
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