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第17話 わんことじゃれる

目覚ましをかけて一寝入りすると、テニスで消耗した体力がすこし回復したような気がした。 髪が伸びてきたなと思いながら、顔を洗って目を覚ます。 しばらく時間を潰すと17時になったので、縁の部屋をノックした。 「開いてますー」 「邪魔するぞ。……買い物ありがとう」 「いえ、奏太さんのてりょ……いや、お安いご用です」 テーブルの向こう側で縁が正座待機している。 「これから一時間くらいかかるぞ。適当にテレビ見るなり好きなことしててくれ」 「え、そんな。俺に何かできることないですか?」 「何か頼む程のものを作るつもりじゃないからな。特にない。……先に、酒だけ飲み始めるか?」 「了解です!あ、ハイボール売ってなかったんで、うちにあるウイスキーで作ります」 「じゃあ俺ハイボール頼む」 かくして、縁は飲み物を、奏太はつまみを作り始めた。 「ハイボールできましたー」 「じゃあ、乾杯だけな」 「乾杯」 カランとグラスをぶつけて、プチ送別会の始まりだ。 奏太は一口だけ飲んで、鶏肉の下味をつけ冷蔵庫に放り込んだ。 じゃがいもをいくつか見繕うと、洗って皮を剥く。 「君の実家は農家なのか?」 「いえ、実家は会社員なんですけど、親戚に農家が多いもので。余り物をよくもらうんです」 「羨ましいな。いいじゃがいもじゃないか」 「そうなんですか?俺は食うばっかりなんでよく分からないですけど。奏太さんのご実家は?」 「両親は音楽家で、ドイツに住んでる」 「えー!カッコいい」 「俺は行ったことはないがな。数年に一度年末に帰ってくるくらいだな」 皮剥きの終ったじゃがいもを、半分は千切りに、残りを櫛形に切る。 冷蔵庫から鶏肉を取り出し、フライパンで焼き始めた。 「あー、料理してる音って良いですね。なんか落ち着きます」 頬杖をついた縁が目を閉じる。 「そうか?……そうかもな。キーボード叩く音よりは落ち着くな」 千切りにしたじゃがいもにチーズ、塩コショウ等を入れて混ぜる。 「キーボードって、自分が叩く音は気にならないのに、人のは無性に気になるんですよねー。何でなんだろ」 「それもそうだな」 焼き上がった鶏肉に醤油とみりんで味をつけ、照り焼きにする。 皿に盛って切り分けたのを縁の前においた。 「食うなよ」 それだけ言ってキッチンに戻る。 千切りにしたじゃがいもをフライパンで焼く。 玉ねぎを刻んでいると、猛烈に涙が出てきた。 「お前っ、この包丁切れないにも程があるぞ」 「あーすみません、普段使わないもんで」 「ちょっとこっち来てみろ」 暢気に笑う縁の首根っこを掴むと、まな板に顔を近づけさせる。 「わっ、ちょっと、何ですかこれ、催涙ガス?目と鼻が痛っ、痛いです!」 縁も一気に涙を溢れさせる。 気がすんだ奏太はいったん避難し、涙を拭って息を止めて残りの玉ねぎに挑む。 玉ねぎは最低限に刻むにとどめ、櫛形のじゃがいもを軽くレンジで温める。 じゃがいもが焼けてきたのでひっくり返す。

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