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第22話 エンディング
翌朝、奏太がいつもより少し遅い時間に出勤すると、当然のように縁が自席で仕事をしていた。
奏太が口を開くより早く、縁が笑顔で見上げてきた。
「おはようございます」
奏太は苦笑混じりで挨拶を返した。
「おはようございます。……駄目ですね、今朝は若干寝坊しました」
「昨日遅かったですからね。実は俺も寝坊しました。おかげで朝走れなくて」
「え、いつもは朝走ってるんですか?」
奏太は目を見開いた。
「はい。言っても大した距離は走ってないですけど。目、覚めますよ」
「体鍛えるの、本当に好きなんですね……」
「やったらやった分だけ効果がでますから。楽しいですよ。あ、でもよくひかれちゃうのが欠点ですね」
「……すみません、私もちょっとひきました」
どうやら縁は完全に通常運転に戻れたようだ。内心気が咎めていた奏太は少し安心する。
始業後の最後のレビューも問題なく終わり、メールの予告通り資料を顧客へ送付できた。
「……ふぅ。これで本当に完了ですね。香住さん、ご迷惑おかけしてすみませんでした」
頭を下げる縁に、奏太は笑って見せた。
「気にしないでください。結果的に計画より作業が早く進んだんで、OKですよ」
「香住さんはすごいですね。今回、改めて尊敬しました」
「へ?!いや、そんな大層なことはしてないですよ」
「いや、気の持ちようというか、逆境に負けないところというか……うまく言えないですが、すごいです」
「あまり持ち上げないでください。図に乗りますから」
昼少し前になって、奏太の出発の時刻が近づいてきた。
部長に挨拶に行き、席に戻ると荷物をまとめる。
「では、そろそろ帰りますね。縁さん、色々お世話になりました」
縁が慌てて立ち上がる。
「いっ、いえ、こちらこそ、お世話になりましたし、大変勉強になりました。……でもまた、次のフェーズの際にいらっしゃるんですよね?」
「その予定ですが、状況次第では私ではなく別の者が来るかもしれません」
「そうですか……」
目に見えて落ち込む縁。
「まあ、でもたぶん私が来ることになる気がします。その場合はよろしくお願いします」
奏太は微笑んで頭を下げた。
「はい!そう願ってます。あ、下までお送りします」
「え、いえ、大丈夫ですよ?」
「いやいや、休憩です休憩」
無理やりエントランスまで見送りに来た縁はふと足を止めた。
「?ああ、ここまでで結構ですよ。ありがとうございました」
奏太が軽く会釈をすると、縁はもどかしげな顔をして……思いきって口を開いた。
「あの……香住さん、いや、奏太さん。俺、やっぱり貴方が好きです。今回のことで惚れ直しました」
「?!馬っ鹿お前、こんなところで言うやつがあるか」
焦った奏太が縁を止める。
距離を詰めると、小声で応えた。
「気持ちは分かったが、俺には無理だ。すまん」
「……」
黙って縁がうつむく。
「彼女がいるって言っただろ?」
「え?だってあれは弟さ……」
奏太は唇に指を当てて見せた。
「黙っといてくれ。俺には大事な奴なんだ」
「……分かりました。それならその彼女さんを越える努力をするまでです」
「はぁ。諦め悪いなお前」
縁が笑った。
「ひねくれてると言ってください。では、また」
「はい。近いうちに」
片手を挙げて、二人は別れた。
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