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第23話 おまけ 縁くんの受難1
愛媛からはるばる東京まできた縁は迷っていた。
道に迷っていた訳ではない。当面の下宿先を決めかねていた。
何件か不動産屋を巡ったが、今まで寮生活を送ってきた者にとっては厳しい家賃という現実が、大きな壁として立ちはだかる。
だが、ただ一つ、縁には打つ手があった。最終手段といってもいい。
その最後の手を使うかどうかで、今迷っているという訳だ。
インターホンを押す手を出しては迷って引っ込める。
この動作をもう三回以上は繰り返している。
奏太に告白したときの方がよほど迷いがなかった。
嫌な汗をかきながら、四度目の指を伸ばした時だった。
「もしかして……縁?」
背後から縁を呼ぶ女の声がした。
聞き覚えのある声だ。
「ちょっとぉ、縁でしょ?」
カツカツとハイヒールの足音が近づいてくる。
覚悟を決めて縁は振り返った。
「久しぶり、あねっ、」
「やっぱり縁だわぁ!」
ハイヒールの主は軽くジャンプすると縁に思い切り抱きついた。
ちょうど縁の顔を控えめに言っても大きめのバストがふさぎ、呼吸を止める。
「久しぶりにどうしたのよぉ?来るんだったら連絡くらいしなさいよ」
「んー!」
「というか定期的に連絡しなさいよ。いったい何年音沙汰なしで済ましてたと思ってるのぉ?」
「んー!んー!」
「お姉さまの話くらい静かに聞きなさいよ、この愚弟!」
ようやく解放された縁は、真っ赤な顔をして息を吸い込んだ。
「連絡しなかったのはごめん。姉貴」
「分かったならいいけどぉ。とりあえず上がんなさいな」
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