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第25話 おまけ 縁くんの受難3

「縁、荷物とかはどうするの?これから来るの?」 「服とか身の回りのものは、住むところが決まったら送ってもらえるように頼んできた。家具とかはもともと大したものなかったし、人にあげちゃった」 「あそう」 まりあはリビングを出て右側の部屋のドアを開けた。 「この部屋好きにしていいわよ。要らないものあれば捨ててもいいし」 部屋の中は、やや家具が少ないが、作り付けのクローゼットがあり、デスク、チェア、本棚等がある。 家具の趣味を見るに、男性の部屋らしい。 「姉貴、ここってもしかして」 「元々旦那と元旦那の部屋。次の予定はないから縁使って」 からりとまりあはいい放つ。 「次の予定ないの?」 「なによ。縁が結婚しないからその分私が二回結婚してあげたんでしょ。もう十分じゃない」 「その理論はおかしくない?」 「うっさいわね。あとぉ、ベッド2台あるけど移動するの大変だから寝室一緒でいい?」 「え、まじで。まあいいけど」 寝室は縁の部屋の隣、リビングに面した部屋らしい。 リビング側の壁はスライド式のドアになっていて、開け放てる。 「出入りが楽だからいつもリビング側は開けっ放しにしてるの」 広めのリビングには大型テレビとカウチソファ。キッチンはカウンター式だ。 まりあの部屋もあるだろうから、3LDKだろうか。 ふと、縁は寮の1LDKの部屋を思いだし、その差にめまいがした。 「姉貴いい部屋住んでるね」 「そう?一人だともて余すばっかりよ。縁が来てくれてちょうど良かったわ。……あ、男連れ込むなら私が当直の時にしてよね。気まずいから」 「連れ込まないよ!」 まりあは都内の総合病院で内科医をしている。 「えぇ?わざわざこっち来たのって男絡みじゃないの?」 さすがに姉弟、核心を突いてくる。 「ん、まあ……そうだけどさ」 「どんな人?写真ないの?」 「ないよ」 「どうせ縁のことだから相手色男でしょ。そのうち紹介しなさいよ」 そんな日が来るといいけどね、と内心思いながら縁は黙っている。 「こんなところかしらぁ。あとは追々聞いて。とりあえず私はシャワー浴びるわ」 ぽんぽんと縁の頭を軽く叩いてまりあは自室に入っていった。 懐かしい癖だ。 まりあと縁は血が繋がっていないとはいえ仲のよい姉弟だった。 年は同じだが、まりあの方が数ヶ月年上で、かつ何かと面倒見のいい性格のため、まりあが姉、縁が弟の図式は自然と物心つく前から出来上がっていた。 学生時代に縁が同性愛者であることを告げてから両親と疎遠になっても、まりあだけは変わらず縁のことを気にかけてくれていた。 まりあの結婚式には、縁は二度とも出席しなかった。 両親と顔を合わせたくなかったからだ。 式の前日にまりあに電話で祝いの言葉を告げたのみだった。 その頃から、縁とまりあも連絡が途絶えがちになってきて、今日に至る。 食卓で一人珈琲を飲む。 アメリカンコーヒーのさっぱりした味が、そのまままりあの性格を思い出させる。 縁は頭を振って感傷を絶ちきり、手持ちの荷物だけでも広げようと、先ほどの部屋にバッグを持って入った。

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