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第4話 そんな心の底から感極まった声でマイエンジェルと称賛されることには、きっと自分は一生慣れない

「おい、も……いいから、早く……っ」  一方的に愛撫されているのが恥ずかしく、次の段階に進もうと促すが、綾斗は聞いてくれない。 「重春さん……これもつけていいですか……?」  綾斗が、床に置いてあった黒いビニール袋を引き寄せ、中から未開封の新たなグッズを取り出す。それはシルバーのチェーンで、両端にクリップがついていた。 「……なんだそれは」  用途がわからなかったので聞くと、綾斗は一瞬、え、という顔をして、――そして目の色が変わった。 「……重春さんが、いけないんです……」 「は……?」  唐突に言われて、意味がわからない。私の一体何が悪いのか。 「重春さんが、こんな、こんな、かわいいから、いけないんです……っ!」  グッズの箱を握り締め、あり余る熱で体を震わせながら彼は言った。 「そもそも、そもそもですよ? こんな、アダルトグッズの店に来て、使うとこ想像してヒート起こしちゃうとか、あり得ません!」  それは同意する。 「そんなのは、そんなのは、ぜんっぶ、重春さんが超、超、超かわいいから、そんなことが起きちゃうんです!! 間違いなく、この世にいるアルファの中で、重春さんが一番、いぃぃちばん、かわいいからです!!」  ……。  いや、アダルトグッズを買っただけでヒートを起こしたのは、単に君がエロチワワだからだろうと、ものすごく突っ込みたかったが、できなかった。  グッズの箱を速攻で開けた綾斗が、クリップで九条の乳首を挟もうとしてきたからだ。 「そ……っ、そんな用途なのか!?」 「ニップルクリップって言うんです。チェーンつきです」  洗濯ばさみで挟まれるのを想像し、体が強ばる。 「い、痛くないかそれは?」 「大丈夫です。見た目痛そうですけど、ネジで挟む力を調節できるんです」  そう言われ、硬く形を成している乳首をクリップで挟まれる。やっぱり痛いと思っていると、綾斗がネジを回した。ネジを回すと、クリップの口がだんだん開いていく構造になっていて、クリップがちゃんと乳首をつまめて、なおかつ痛みが我慢できるぎりぎりのところで調整された。 「これぐらいでどうですか?」 「……」  確かに、予想したような痛みはない。だが、もうこれは、もはやそういう問題ではなかった。  両方の乳首をクリップで挟まれ、その間をシルバーチェーンが弧を描いている。嘘だろうと言いたい。  人としての尊厳というか、そういうものが今、危機に瀕している。こんな恥ずかしいものがこの世にあるなんて、想像もしなかった。  一方、綾斗はもう完全にチワワモードに移行していて、ものすごくしっぽを振っていた。 「これ、すごい、いいです……! キます……!!」  もうどきどきわくわくという顔で、チェーンに触れてくる。途端、びくんと九条は震えた。  チェーンに少し触られるだけで、両方の乳首に刺激が走る。 「ちょ……ちょっと待っ……」  しかし無慈悲にも、綾斗はチェーンを好奇心のままに動かす。上に引っ張られれば乳首も上を向かされ、チェーンを揺らされれば乳首も揺れる。そのたびに胸の先から体に刺激が電流のように走る。しかも磔にされているので、体の反応を隠すことができず、どんな些細な反応もつぶさに見られてしまう。  そのあまりの恥ずかしさに、全身の血がぶわっと頭に上る。脳出血で死ぬんじゃないかと思うほどだ。  なのに綾斗はというと、すっかり目を輝かせていた。 「あぁ……いいです、最高です、マイエンジェル……!!」  マイエンジェル……。  その新たな、自分には似合わなすぎる単語に、壮絶なダメージを受ける。  神様と言われるのもだいぶあれなのだが、マイエンジェルはそれとはまた次元が違うほどキツい。  君に愛されるのは嬉しい。すごく嬉しい。けどな。  そんな心の底から感極まった声でマイエンジェルと称賛されることには、きっと自分は一生慣れない。 「いや、あのな、何度も言うようだが私は人間……」 「あぁ、なんでそんなにかわいいんですか? 重春さん、ほんとにアルファでよかった……もしベータやオメガだったら、絶対、僕に会う前に、悪いアルファに喰われてますっ!!」  いや。いやいやいや。あのな。  まるで無垢な生娘のように言われ、さすがに言い返した。 「私は君に会うまで、かわいいなんて、人生で一度も、一度もっ、言われたことがないんだが!?」 「そんなの、周囲の人の心の目が曇ってただけです!」  いや、心の目が曇っているのは君だ。間違いなく君だ。  そう言い返したかったのに、彼は九条の太ももの上に両肘を乗せてくると、九条の下着の中に手を突っ込み、九条の(たかぶ)ったものを取り出してぺろぺろと舐め始めた。 「……!」  まるで猫のように四つん這いの体勢でそれを舐める彼から目を離せない。そこはすでにぎんぎんだったのに、さらに膨らみ、硬さを増していく。 「気持ちいい……?」 「……」  素直に頷けない。  今、気持ちいいと言うと、まるでこの拘束も含めて、いいと言ってしまうことになりかねなくて。 「じゃあ、これはどうです……?」  舐めながら、裏筋を指でなぞられ、九条はびくりと体を震わせた。そこは九条が特に感じる場所だ。  そこを集中的にしごかれ、舌でつつかれ、九条はぶるぶると震えた。 「待っ……こ……このままじゃ……イく……っ」  イってもすぐ回復するだろうが、最優先事項は綾斗の中で出すことだ。そのゴールにたどり着かない限り、この恥ずかしい時間がいつまでも続くことになる。 「ね……気持ちいい?」  裏筋を指で弄ばれながら再度聞かれ、九条はもう何度も首を縦に振った。 「口で言って?」  首を少しかしげ、小悪魔のように聞いてくる。ナチュラルに言葉責めが入ってきている。 「き、気持ちいい……」 「それだけ?」  そう楽しそうに促されても、何を言えばいいんだと焦る。自分の感じている快楽を言葉で表現するとか、そんな高度なことを急に求められても往生するばかりだ。 「こっちは?」  再び胸のチェーンに触れられ、思わず変な声が出そうになる。そこは敏感な部分を挟まれたままで、痛いとはまた違う、もどかしい熱を持っていた。 「ジンジンしません?」 「……する」 「そういうの、言ってほしいんです。ほら、こっち……触られて、どう感じます?」  また裏筋をつつかれながら促され、九条は言葉を絞り出した。 「あ……熱い……」 「もっと、卑猥に言ってみて……?」  無茶を言ってくれるな、と頭を抱えたくなる。  そもそも、もう何かを考える余裕などないのだ。なのにさらにそこをいじめられ、透明な先走りがあふれてくる。 「あ……ぅっ」  イきそうになり、必死にこらえた。腹筋が震えている。綾斗はふふっと笑った。 「なんか、射精管理してるみたいです……。こんなところまで、僕のものにされてるんですよ、今……?」  裏筋をぴとぴとと指の腹で触りながら言ってくる綾斗に、言う。 「な、何度も言っているだろ。私は、君のものだ」 「なんかそれ、今言われると、すごい、キます……っ!」  それで満足したのか、焦らす余裕もなくなったのか、綾斗は向かい合う形でまたがってきた。どうやら最後まで手枷を外す気はないらしい。  ヒートでもうとろとろになっていた綾斗のそこは、少々無理な体勢でも、ずぶりと九条を呑み込んだ。 「くっ…………うぅぅっ」  綾斗の熱に埋もれただけでも、相当に気持ちよかった。ラットを起こしているので、根元に瘤状の亀頭球が形成され、がっちりと綾斗の体と結合する。こうなったら、もういくらももたない。 「重春さん……もうちょっと我慢して……?」  綾斗は九条の首に片手を回し、もう片方の手で胸のチェーンに触った。 「……あッ!!」  不意打ちで刺激を与えられ、九条は達した。  どくん、どくんと脈打ち、ラットならではの大量の精が、彼の中にたっぷりと注がれる。  綾斗は、あ……という顔をしていた。  ここまで早かったのは、初めてではないだろうか。  早く出した方がいい状況だっただけに、九条も今回は耐えようという意識がなかった。 「……」  名残惜しそうに、綾斗が体を離す。  綾斗だって、さっき九条の口の中でイっているのだが、その後再び兆していた彼のそれは勃ち上がったままであり、不完全燃焼という感じだった。  なんだか若干申し訳ないが、そもそもここは店のトイレだ。物足りなければ、家で続きをすればいい。 「綾斗……手枷(これ)、外してくれ」  何はともあれ、ミッションは無事達成した。これでこの手枷から解放されると九条は思っていた。  なのに……。

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