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第5話 なんで、つがいを助けにきたのに、おもらしを強要されているのか、誰かわかるなら教えてほしい
「重春さん、せっかくなので、このまま潮吹きまでいきませんか?」
「潮吹き……?」
それがなんなのかはやはりわからないのだが、嫌な予感がした。
「いや……少なくともここではしない。今日はもう帰……」
おもむろに、綾斗に亀頭をつかまれた。
「はっ!? なっ、何を……っ」
手のひらの真ん中が亀頭に当たるように手を置き、くるくると円を描くように動かされ、びくぅっと体が反応した。
イった後の亀頭は、極めて敏感になっている。そこに触られても、気持ちいいだけではなく、くすぐったさと痛みも同時に感じるので、普通は触らない。はずだ。
「ちょっ……待てっ……それは無理……っ」
「これを耐え抜くと、潮吹きできるんです!」
綾斗は興奮覚めやらぬ状態で、目をらんらんと輝かせている。
精を中に出しても、ヒートが鎮まるまで数分はかかることがある。どうやらヒートの興奮は続いているらしい。
まだ戦いは、終わりではなかった。
なんでそんな、ミッション終了後まで、こんな責め苦が続くんだと泣きたくなってくる。
「ひぁっ……ちょっ……そこ……待……ッ!」
自分の意志とは関係なく、身体がびくびくと跳ねる。まるで剥き出しの神経を手で嬲られているような感覚であり、くすぐったさと痛みが強い。少し触られるだけでも、飛び上がりそうな感覚なのだ。
快感どころか、これは間違いなく拷問だった。
「こんなの無理だ! 君だって、男なんだからわかるだろう!?」
すると、「はい」と綾斗は頷いた。
「普通の、こういうの慣れてない男性が潮吹きするのは相当大変らしいです。すごく苦しいし、耐えられないし、耐え抜いても潮吹きまで到達できるかどうかわからないですし」
「だったら、なんでそんなことをしようとする!?」
「例外的に、ラットでイった後だと、潮吹きしやすいらしいんです。だから、アルファ男性は潮吹きに関してお得なんです!」
いや、絶対お得じゃない。こんな体験、一生、いや一分だってしたくない。
「潮吹きはイくのとはまったく違う快感なんです。それがラットの後だと、たった十分で体験できるんですよ!!」
「……」
その間に三回ぐらい死ねそうな長さだった。
「いやっ! 無理だから! 十分も無理だ!!」
「大丈夫です! 死にはしません!」
「いや死ぬ!!」
九条は明らかに真実ではないことを叫んだ。それぐらい追い詰められていた。
それから三分、四分、五分と亀頭を撫でられ続け。
「あーっ、ああ、あっ、ああぁぁぁぁぁぁっ!」
もう上げる声は悲鳴じみてきていた。
刺激的にはとうに限界を超えているのだが、さらにさっきから、尿意もせり上がってきている。
「頼むっ! もう無理だ! なんか……もれそう……!!」
「それです!!」
綾斗はまた一段と目を輝かせた。
「おしっこが出そうで出ない、それでいいんです! これをひたすら続ければ、潮吹きにたどり着けます! あとは我慢せずに、それを出そうとしてください!」
信じられないことを言われた。
まさか、まさか、潮吹きって……っ。
「おもらしなんて絶対嫌だぞ!?」
「おもらしじゃないです。潮吹きです」
違いがわからない。
尿道から出るものが、尿でなくてなんだと言うのだ。
「というか、ここで放尿とか、絶対無理だからな!?」
「だから尿じゃなくて、潮ですって。もらしちゃ駄目だって思わないでください。普段の羞恥心を取っ払って、自分を解放するんです!」
九条はもうぶるぶると首を横に振った。
そんな、人としての尊厳を捨てないと達することができない快楽なんて、知りたくない。
「大体っ、このせり上がってくるのが尿じゃないって、なんでわかるんだ!?」
「自分が出そうとして出るのはおしっこで、出そうとしてないのに出るのは潮です」
もう帰りたい。本気で。
なんで、ヒートを起こしたつがいを助けにきたのに、トイレで磔にされて、こんな拷問の挙げ句におもらしを強要されているのか、誰かわかるなら教えてほしい。
「ひぃぃぃぃっ! あ゛ぁっ、あ゛あ゛あ゛ぁぁぁあああッ!」
もう完全に悲鳴以外の何物でもなくなり、自分では声を抑えられなくなっていた。
じっとしてなどいられず、さっきからドアに体を何度もぶつけている。店との間に、洗面所の空間があるからまだ気づかれていないのかもしれないが、いい加減、無理がある。
「声、もう、抑えっ……人が、人が、来るぅぅっ!!」
「声は大丈夫ですっ。ネクタイで縛ります!」
綾斗のネクタイで、無慈悲に口を縛られる。
ついに、人間の言葉すらも奪われた。
「んぅぅぅぅー!! ううううぅぅぅぅ!!」
こんなに肉体的に苦しい思いをしたことは、骨折の時でさえ、ない。
「我慢しないで自分を解放して! 思い切り踏ん張って!!」
そんなつがいの鬼畜な声援が、右から左に虚しく抜けていく。
それからはもう、ただひたすら地獄の時間だった。しかも十分と言っていたのに、十分では到達できず、結局できるまで続けられると知った時のあの絶望感といったらない。それからは――後で聞くと二分ほどだったらしいが、さらなる地獄だった。その地獄の中の地獄の果てに、遂に――。
「ふぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
頭が真っ白になり、今まで感じたこともない快楽の中で、九条は尿道から勢いよく潮を吹いていた。
――こうして。
アダルトグッズの店のトイレで、ドアに磔にされた上に強制的に潮吹きをさせられてしまうという、ドアを壊した方がまだマシだったんじゃないかと思うほどの黒歴史が、真面目な九条の人生に刻まれたのだった。
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